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通常の腸内細菌科細菌とは少し違う菌が血液培養で陽性となった胆嚢炎

今回の症例は70代女性の患者です。肺癌で当院かかりつけ。9月に胆嚢炎の診断で保存的治療を受けています。

今回は背部痛を主訴に救急外来受診されました。来院時は無熱でしたが、家にいるときには悪寒戦慄を伴うshiveringがあったということです。

画像検査で胆嚢の腫大及び浮腫状の壁肥厚を伴っており、同日緊急で経皮的胆嚢ドレナージが行われました。感染胆汁であり、そこの感染に間違いなさそうです。翌日血液培養からも胆汁培養からも同様の菌が検出され確定に至りました。

血液培養が陽性となった胆嚢炎、菌は何?_d0402367_17205782.jpg

今回の菌は言語化すると背景からは溶血は認めず、グラム陰性:太め・短めで染色性がよく、先端が細いものから角張ったものまである。周囲が抜ける。となります。

→どちらかというと腸内細菌で、腸内細菌だとすると一番近いのはKlebsiella?と考えました。

グラム染色の読影を難しくしているのは、やはり多くの菌では見た目が似ているからに他なりません。抗菌薬や培養環境でなんとでも変化する上、なかなか言語化して細分化している成書に会えないし、上の先生はずっと見てたらなんとなくわかる、、、って言うし・・・。なので当院ではなるべくグラム染色を見るときに言語化しようと思って取り組んでいます。そんな中2021年のmedical technology 11月号はそれを結構細分化してフローチャートにしている感じで、秀逸ですので、興味がある方で初学者の先生は是非一冊買って損はないと思います(しかも安い)。

個人としては、グラム陰性菌を見る際には基本的に3つを基本として記載するようにしています。その3つが大きさ(太さ・長さ)・細胞内部の染色性・後はedgeです。非発酵は柵状に増殖する部位を見る、などの特徴もありますが、大体以下のようになります。

大きさ

細胞内部の染色性

edge

腸内細菌

太いし長め

一様に濃いpink

やや角張っている

非発酵菌

細め、少し短め

一様だが薄く輪郭が濃い

先細り

HACEK group

短い

一様

四角

嫌気性菌

バラバラ

バラバラ(一部グラム陽性にも)

バラバラ、針のようなものもある

結果としてこの菌はEdwardsiella tardaと検査結果が返ってきました。

この菌が臨床的に問題になる(治療の対象になる)のは皮膚軟部組織感染症・胆管炎及び女性生殖器感染症です。感受性は極めて良好で、CEZの良い適応菌と言えるでしょう。

以前ブログにも紹介している溶血性のあるグラム陰性桿菌2でこの菌の詳細は記載しておりますので、見ていただければわかると思いますが、教科書的にはまれ、と記載されています。なおレジデントのための感染症診療マニュアル4版では軟部組織感染症のところにしか記載されていません。しかしながら年間1,2例は当院でも必ずと言っていいほどお目にかかる菌であり、そのほとんどが消化管・胆道由来です。特に救急外来や消化器内科を担当された症例でこの菌が血液培養から出たら、そこが感染源で診断は良かったんだ!と胸を張ってもらえるかと思います。

で、今回の菌は溶血が全然認められませんでした。同じ菌の名前であっても溶血の強さには違いがあります(前回紹介したときにはβでボトル溶血までしっかりとしていました)。他にはこの菌はSalmonella同様硫化水素を産生し、これは極めて特徴的です。

血液培養が陽性となった胆嚢炎、菌は何?_d0402367_17210013.jpg

◉溶血性のあるグラム陰性桿菌と言えば:Aeromonas hydrophila> >Edwardsiella tarda.(教科書的には大腸菌と緑膿菌だが、それほど溶血が強くはない)

EdwardsiellaAeromonasも下痢→胆管炎を起こすし、共に重症皮膚軟部組織感染症の起因菌となる(溶血性の菌は重症皮膚軟部組織感染を起こすことがある)

◉ともに赤鰭病の起因菌

◉教科書的に稀、とあっても実臨床としては稀ではないと感じることも多いが、まとめて報告する価値は十分にある。

Edwardsiellaはペニシリン以外ほとんど効くことがほとんど。Aeromonasは感受性に注意(臨床微生物学の教科書にはアンピシリンも有効で、抗菌薬への耐性は基本的にない、とまで記載)

Medical technology 202111月号 医歯薬出版

レジデントのための感染症マニュアル 第4

JJAAM 2016; 27:192-8

Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases 9th edition, Elsevier

臨床微生物学 医歯薬出版株式会社


# by sakai-infection | 2021-11-22 17:21 | Comments(0)

当院では数ヶ月ごとのローテーションで、総合内科に研修医が入ってくるので、数ヶ月ごとに同じ菌のレクチャーをさせてもらっております。その中で、Klebsiella pneumoniaeはいつもお決まりでレクチャーしております。

今回の症例は70代男性です。3日前から夜間の発熱があり、朝になったら解熱、を繰り返すということで4日目に時間外受診されました。基礎疾患としては前立腺肥大・慢性副鼻腔炎があり、タムスロシンとカルボシスチン・クラリスロマイシンを内服されております。救急要請時には悪寒・戦慄を伴い、38.7℃まで上昇、来院時は37.4℃でした。尿も綺麗で、前立腺の圧痛もありません。Physicalとしては肝叩打痛もありません。コロナウイルスの抗原定量を実施して陰性も確認しております。

血液検査としてはWBC 10,000程度、CRP20程度まで上昇。他にはtransaminase50程度の上昇を認めているくらいで、あまりsickな印象はなく、尿培養(陰性)・血液培養採取の上一旦帰宅いただきました。

翌日血液培養が4/4で陽性となり、呼び戻しで入院となりました。

血液培養陽性、培養も生えてきた・・・、なのに血液培養ボトルからの塗抹で菌が見えない・・・。_d0402367_14375981.jpg

ただ、血液培養のグラム染色塗抹を見ても菌が全然認められません。ここでは示しませんが、相当な視野を見てやっとGNRがあったとのことでした。その際に血液培養ボトルを見てみると、血液が凝集して、培養液と2層に分かれている像が確認されました。

血液培養陽性、培養も生えてきた・・・、なのに血液培養ボトルからの塗抹で菌が見えない・・・。_d0402367_14380360.jpg

わかりにくい・・・

呼び戻しの際に腹部造影CT検査を行ったところ、多発性肝嚢胞があり、そのうちの一つで多房化した造影効果を認める膿瘍があり、CMZでの治療が開始されました。

血液培養陽性、培養も生えてきた・・・、なのに血液培養ボトルからの塗抹で菌が見えない・・・。_d0402367_14380771.jpg

後日再度塗抹を塗り直したところ、凝集していたはずの血液培養はさらさらとは言いませんが、溶けていて、グラム染色は以下のようなものでした。また培地は非常に粘稠度の高い灰白色のコロニーが形成されておりました。

血液培養陽性、培養も生えてきた・・・、なのに血液培養ボトルからの塗抹で菌が見えない・・・。_d0402367_14383750.jpg
血液培養陽性、培養も生えてきた・・・、なのに血液培養ボトルからの塗抹で菌が見えない・・・。_d0402367_14384109.jpg

グラム染色上は明らかに伸長し、芽胞を作っているようにも見えますし、極めて長く伸びたGNRが認められました。

結果としてはstring sign陽性のKlebsiella pneumoniaeと診断され、CEZでの治療にde-escalationして、ドレナージを行わずに改善しているということです。

Klebsiellaによる感染は、肺炎・胆道系感染・尿路感染・術後のCNS感染など、どこで何の感染症を起こしてもよいような菌ですが、最初に悪名高いものとなったのはアルコール多飲者によるFriedlander pneumoniaでしょう。これはアルコール多飲者で、上葉を中心とし、喀血を伴う干しブドウゼリー(currant jelly)様の痰が出て、膿瘍も形成する、致死率の高い肺炎が報告されたことに遡ります。現在はその典型的な像はあまりみられませんが、Klebsiellaはアルコール多飲者では特に注意が必要な肺炎の原因菌であることは間違いありません。他にも誤嚥の際の起因菌にもなります。

その次にこの菌を有名にしたのは膿瘍形成、中でも肝臓・脾臓でのものでしょう。膿胸ももちろんあります。微生物学者の間で最も悪名高いものとなったのは、米国を中心としてKPCというカルバペネムを加水分解してしまう(カルバペネムさえ効かない)耐性遺伝子を持ったKlebsiella pneumoniaeが世界規模で今まさに広がっていることです。この耐性菌を基に、米国では抗菌薬使用の見直しをCDCを中心として始めています。

典型的なKlebsiellaのグラム染色所見は、ずんぐりむっくりした大型のグラム陰性菌で、莢膜を有します。

血液培養ではこの莢膜は通常認められません。また、safety pin signといって、安全ピンのように染まる腸内細菌科細菌の典型的な症例として覚えておくのがよいと思います。

ただ今回の菌は非常に伸長しているのと一部の膨化が認められており、そのような菌はいるにはいますが、mainではありませんでした。非常に古い論文ですが、1995年にAZMの使用で、MIC付近の濃度に晒されたK. pneumoniaeE.coliは伸長化及び膨化を示し、高濃度で溶血するという論文が認められ、位相差顕微鏡では今回の症例のように極めて伸びたKlebsiellaが掲載されておりました。やはりCAMが入っていたことが、今回はkeyとなったと考えます。MICに近い濃度だっかかどうかは測定もしてませんのでわかりませんが・・・。非常に伸びた菌が認められた場合にはマクロライドやキノロンの前投与の有無を確認するのが良いかもしれません。

なお、βラクタム系抗菌薬投与の場合には中心部位付近で膨化するバルジ(bulge)が認められることがあるとされますが、これはPBPへの作用によるものだそうです。

血液培養陽性、培養も生えてきた・・・、なのに血液培養ボトルからの塗抹で菌が見えない・・・。_d0402367_15302137.png

さらに今回のコロニーはstring sign陽性でした。この粘稠性は、菌の持つ莢膜抗原の種類に多くは依存し、K1, K2のいずれかの多糖類莢膜型のものがその理由とされますが、magArmpAという遺伝子によるものも報告されております。これらの過粘稠性の原因の特定には、残念ながら遺伝子診断が必要であり、当院では測定することができません。

ただしこれらの因子をもっている可能性が高いわけであり、これらの因子は膿瘍形成や眼内炎の発生に寄与しているとされます。なのでこう言った菌が血液培養で陽性で、肝膿瘍があれば、眼科対診が勧められます。

最後に、今回の症例の細菌検査的な学びとしては、ボトル内でゲル状に凝集していたことです。これは後日再度ボトルをみると解除されていたのですが、多分ムコイド形成に伴っての変化かと思います。今後似たようなことがあれば、bortexなどで攪拌させて塗抹を塗るなり、すぐに塗り直してグラム染色を再検してみて、違いが出れば面白いかなぁと思っております。

そして、当院の見学を希望される場合には、是非水曜日にきていただき、15時からのレクチャーに参加いただければと思ってます。


Clin Infect Dis 2006; 43(3):e26-8

Antimicrob Agents Chemother 2012; 56(4): 2108-2113.
微生物検査ナビ第2版 栄研化学

Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases 9th edition

化学療法学会雑誌 1995;43(6): 55-63.

Journal of Antibiotics 1982;35(10):1400-1403

Molecular Cell 2012;48(5): 705-712


# by sakai-infection | 2021-11-16 14:40 | Comments(0)

今日の症例は、前回の生卵喫食歴のある患者に引き続き下痢の症例です。21歳男性が下痢が続き、嘔気もあり、一度嘔吐もあったということで救急外来に受診されました。生来健康な人です。こうなると普通は食中毒を疑います。全身状態は良好です。その際の便の塗抹をお示しします。

便の塗抹が威力を発揮する唯一無二(と思う)の疾患_d0402367_12584409.jpg

上記でキャンピロバクター腸炎でほとんど確定です。

便のグラム染色が威力を発揮する機会はそれほど多くありません。腸炎かどうか?ということに関してはグラム染色では白血球がいるかいないか?というのが手掛かりにはなりますが、どの菌が?となると、腸の中には正常細菌叢があり、菌だらけです。そんな中でグラム染色が有用なのがこのキャンピロバクターとクロストリディオイデスディフィシル腸炎くらいかと思います。

便の塗抹が威力を発揮する唯一無二(と思う)の疾患_d0402367_12584869.jpg

芽胞が目立つGPRClostridiumが疑われるところですが、Clostridium自体は腸内の嫌気性菌であり、difficileかどうかはこの段階ではわからない。CD toxinGDHが陽性であり確定診断した(他の症例)


ということで今回はCampylobacterについてです。CampylobacterSalmonellaと同様、非常に少ない菌量で感染が成立します。基本的には潜伏期間が>48時間であり、感染性下痢症を疑う場合に3,4日前までの食事歴を確認する必要がある重要な菌となります。基本的には便の培養のみで診断し、血液培養採取自体は必ずしも必要ないという認識で良いかと思います。Self limiting deseaseであり、抗菌薬投与は不要であることが多いですが、発熱が高度・下痢が1週間以上続く・血便が出ている・妊婦・免疫不全患者では抗菌薬治療を行います。治療薬は基本的にセファロスポリンは無効であり、マクロライドでの治療が第一選択です(が、マクロライドの副作用の第一が下痢です)。第二選択はキノロンとなりますが、最近ではこの耐性化が著明です。これは海外渡航帰りの下痢でCampylobacter由来だとさらに顕著です。理由の一番は抗菌薬の使用です。と言ってもヒトにではありません。基本的にCampylobacterはトリや豚の常在菌です。その飼育に関して抗菌薬がたらふく使用されており、それで耐性化した菌を保有する家畜を十分な加熱処理がなく喫食することで・・・というのが一般的な流れとなります。

この腸炎の合併症で重要なのがGuillan-Barre症候群です。1/2,000くらいで下痢後2-3週で発症すると考えられています。他には反応性関節炎の報告も多く、CRPが経過で上昇する関節炎の所見が、下痢に引き続き認められた場合にはこの菌が関与している可能性があるとのことです。

下痢症での検査は腸内細菌と言われるだけあり、常在菌が極めて多彩にあることから、多くの選択培地に塗布する必要があります。前回のサルモネラであればS-S培地が有名ですが、今回のCampylobacterSkirrow培地やButzler培地があり、当院ではSkirrow培地を使用しております。

便の塗抹が威力を発揮する唯一無二(と思う)の疾患_d0402367_12585368.jpg

          Skirrow培地、微好気で培養:半透明のコロニーを形成する

一方でこのようなグラム染色性の菌が血液培養から出てきた場合にはCampylobacter fetusや長めですがHelicobacter cinaediを考える必要があります。これらの菌は血管親和性が高く、感染性動脈瘤などの起因菌として近年注目を集めている他、亜急性の経過を辿る髄膜炎の起因菌としても重要です。患者群もアルコール依存症患者や悪性疾患をもつ患者に多いなどの特徴もあります。感受性もjejuniなどとは全く異なるために、セファロスポリン系の抗菌薬が添加されているButzler培地などを使用している施設では注意が必要です。なお、他のらせん桿菌としてはArcobacter, Anaerobiospirillum, Desulfovibrio,及びBrachyspiraがあります。Brachyspiraの菌血症は大腸などの手術後の感染症としても有名ですね。


臨床微生物検査ハンドブック

Johns Hopkins ABX guide app

レジデントのための感染症診療マニュアル

異常行動で精神病が疑われ医療保護入院したCampylobacter fetusによる菌血症の1例 感染症学会西日本大会 2019 吉原真吾、小川吉彦他


# by sakai-infection | 2021-11-09 13:01 | Comments(0)

前医でセフカペンピボキシル®️が処方されているurosepsis, 尿に菌がいないがWBC多数、次に参考にする所見は?

今回の症例は70代、多系統萎縮症で神経因性膀胱もあり、尿道流血カテーテルが挿入されている患者さんです。施設で前日に発熱があり、セフカペンピボキシル®️が処方されましたが、翌日に発熱継続し、悪寒戦慄が認められ救急搬送となりました。末梢は暖かく、warm shockの状況で入院となりました。画像上は左の腎周囲の脂肪織濃度の上昇もあり(前回のCTがあり、それと比較して)CVA叩打痛はないものの、urosepsisが疑わしいということになりました。尿のグラム染色を行ったところ、WBCは多数ありますが、菌は全く見えない(検査室での検査も同様の結果)状況です。尿道留置カテーテルを入れ替え、CVC挿入され、NAD開始の上、血液培養採取してVCM+MEPMHCU管理です。

その時の尿の所見を記載します

尿比重

1.014

尿pH

8.0

尿タンパク

3+

尿潜血

3+

尿白血球

3+

尿亜硝酸

(-)

尿ケトン

(-)

沈渣では明らかな結晶成分は検出されませんでした。

その後45時間で血液培養が1本好気ボトルが陽性という報告です。

前医でセフカペンピボキシル®️が処方されているurosepsis, 尿に菌がいないがWBC多数、次に参考にする所見は?_d0402367_13100425.jpg

大型・染色性良好のグラム陰性菌、抗菌薬曝露のためか長く伸びていたりもしている

最終的には尿の培養からも同じ菌が検出されました。


Proteus vulgaris

今回の症例は前医で抗菌薬が投与されてしまった後で、いろいろマスクされた上で、何か手がかりはグラム染色以外にないのか?というところとなります。WBCが多い→膿尿が示唆されますが、今回注目したいのはpHです。8とアルカリ性に偏っております。尿でアルカリ性に偏る、ということからウレアーゼ産生菌が考えられます。ウレアーゼは尿素を分解する酵素であり、二酸化炭素とアンモニアを作ります。これによりアルカリ化された尿で尿中の燐酸とアンモニアが結合することにより結晶成分、燐酸アンモニウムマグネシウム結晶ができます。

前医でセフカペンピボキシル®️が処方されているurosepsis, 尿に菌がいないがWBC多数、次に参考にする所見は?_d0402367_13101074.jpg

他の症例 Proteusの尿沈渣:燐酸アンモニウムマグネシウム結晶が認められる

文献的には明らかにProteusProvidencia rettgeri (菌株によって差はあるとは思います、type strainではありません)は強いという結果が得られています。

前医でセフカペンピボキシル®️が処方されているurosepsis, 尿に菌がいないがWBC多数、次に参考にする所見は?_d0402367_13101540.jpg
前医でセフカペンピボキシル®️が処方されているurosepsis, 尿に菌がいないがWBC多数、次に参考にする所見は?_d0402367_13101898.jpg

pH8以上の尿を見たらProteusを疑え、といっている先生もいますが、この結果をみるとある程度納得がいきます。

Proteusにはmirabilisvulgaris2種類の菌が臨床的に分離されることが多いですが、mirabilisindole陰性でありvulgarisindole陽性です。ちなみにProvidencia rettgeriはもう少し菌の大きさが小さめかつindoleも陰性です。ちなみに本邦で臨床で分離される割合は明らかにmirabilisが高いです(2020年当院では55:16)

で、今回の菌の感受性結果を示します

ABPC

>16

ABPC/SBT

<=8/4

CEZ

>16

CTM

>16

CTX

<=1

CTRX

<=1

CAZ

<=4

CFPM

<=2

CMZ

<=8

AZT

<=4

IPM

2

MEPM

<=1

AMK

<=4

LVFX

<=0.5

MINO

4

Proteus mirabilis及びvulgarisはポリミシキン・チゲサイクリン・テトラサイクリンには自然耐性であり、またP. vulgarisは染色体性にclass A cefuroximaseを有しておりペニシリンや1.2世代のセファロスポリンに自然耐性であり、通常この菌が認められた場合には3世代セファロスポリン以上での治療を行います(P. mirabirisはそうではない)。通常3世代以上で耐性化があればESBLplasmid性に獲得している可能性が示唆されます。なお、IPMの感受性が若干悪い株が見受けられますが、Proteus mirabilisではありますが古くからPBPの変化でIPM特異的に感受性が落ちる株が報告されております。下に当院の2020年の感受性率を記載しました。

ABPC

A/S

P/T

CEZ

CTM

CTX

CTRX

CFPM

CMZ

IPM

MEPM

P. mirabilis

76%

91%

100%

91%

93%

93%

93%

93%

100%

ND

100%

P. vulgaris

19%

88%

100%

6%

13%

81%

75%

100%

100%

13%

100%

本症例は感受性判明後にCTXde-escalationされました。

最後にcolonyですが、血液寒天培地上でswarmingという現象を起こすのが特徴的でしょう。これは鞭毛を使った非常に高い運動性を反映しているものであり、通常の液体培地での運動は良くあるところですが、固形の培地の上で移動する、という能力は特筆すべきところです。

前医でセフカペンピボキシル®️が処方されているurosepsis, 尿に菌がいないがWBC多数、次に参考にする所見は?_d0402367_13102209.jpg

真ん中にのみ菌を塗布して培養した血液寒天培地

同心円状に広がっている像が認められ、swarmingが最もわかる像となっている

微生物検査ナビ 第2版 栄研化学

Journal of Medical Microbiology 2009; 58: 1367-1375.

Int J Antimicrobial Agents 2011;37:210-218

Front Microbiol 2020;11:256

J Antimicrob Chemother 1995;36:335-342


# by sakai-infection | 2021-10-26 13:11 | Comments(0)

下痢からの菌血症症例


今回は若年者の菌血症症例です。

20代女性です。入院5日前から発熱が最初です。4日前から下痢と腹痛で、30分ごとに排泄があったということです。腹痛も続き、救急外来を受診されました。全身状態は良好であり、血液培養・便培養を採取の上、整腸剤内服で一旦帰宅されましたが、翌日血液培養が陽性となったため、呼び戻しでの入院となりました。

来院後は2,3時間に一度の排泄となっております。救急外来で採取された便の塗抹と血液培養陽性の塗抹を示します。

下痢からの菌血症症例_d0402367_12025827.jpg

喫食歴を確認すると症状が出る数日前には焼肉でユッケを、前日には生卵を食べたそうです。

Salmonellaの語源は病理学者のSalmonが豚の腸管から分離したSalmonella choleraesuisが始まりです。

一般的な病原菌としてはSalmonella enterica subsp. enterica serovar enteritidis or serovar typhmuriumですが、チフスは正式名称Salmonella enterica subsp. enterica serovar Typhi, パラチフスはSalmonella enterica subsp. enterica serovar Paratyphi Aです。なんだか難しいのでこれ以上は詰めません。臨床的には全身症状の強い腸チフスの原因菌(前述の2)とそれ以外の食中毒の原因となる非チフス性サルモネラに分けるのが良いかと思います。この非チフス性サルモネラの代表はS. typhimurium, S. enteritidis, S. heidelberg, S. newportがあります。で、チフスの分類ですが、これはO抗原を基に行われます。これでO9群だと腸チフス、O2またはO4だとパラチフスとなる、と記載されております。腸チフス・パラチフスは3類感染症届出疾患ですが、本症例はO抗原を測定したところO9群でした。ではこの菌は腸チフスなんでしょうか?

微生物検査ナビにはTyphiと国内で最も問題になることが多いenteritidisの生化学的特徴の違いが記載されております

TSI培地

LIM培地

O抗原群

O抗原

ガス

硫化水素

リジン脱炭酸

運動性

S.Typhi

()weak

O9

9,12

S. ParatyphiA

O2

1,2,12

S. Enteritidis

O9

1,9,12

つまり、O抗原だけであればS.enteritidisをチフス、としてしまうこととなり、公衆衛生上の懸念を考慮すべき状況となります。そこで重要なのがガス産生と硫化水素の発生の有無です。他にはVi抗原などを用いた同定方法もあります(ViTyphiは陽性、Enteritidisparatyphiは陰性)

下痢からの菌血症症例_d0402367_12030376.jpg

最終的にはTOF-MSSalmonella spp.で止まってしまってますが、非チフス性サルモネラと診断しました。

サルモネラは200程度と極めて少ない菌量で腸炎を起こすことが可能という伝染性の高い菌であるという特徴を有しています。基本的には汚染された食品の喫食が中心(極めて多くの種類の動物・昆虫にまで定着することができる)です。接種後6-48時間で下痢・嘔吐を認め、腹痛・発熱を伴うことも多いですが、通常は血便は認めません。注意するべきところとしては虫垂炎のような病態を作るmimickerとして知られているところであり、病歴聴取と身体所見を取る以外にも喫食歴が必須です。下痢自体は3-7日で改善し、発熱も通常は2-3日以内に改善します。米国では1986年に極めて重大なアウトブレイクがあり、これは無調整の牛乳への混入が原因でした。現在米国の細菌性食中毒菌としてはキャンピロバクターに次ぐとされます。Plasmid性のampC獲得株(blaCMY)が問題となっており、3世代セファロスポリンへの耐性、更には様々な機序が組み合わせられたキノロン耐性株も報告されております。

便からのみの検出の場合には抗菌薬はあまり治療をしません(抗菌薬を入れない)。これは保菌状態が抗菌薬曝露で長引くという可能性が示唆されていることもあります。一方で本症例は菌血症ですので治療を必要とすると判断しました。治療に関してはシュロスバーグには血流感染がある場合は免疫正常で7日間、免疫抑制があれば14日を推奨としておりました。感受性は良好であり、ABPCも感性ですが、最も推奨が多い(患者も複数回の点滴に忍容性が怪しい)こともあり、CTRXでの治療を行っておりますが、内服置換して帰らせるのであればサワシリン®️でいいかと思います。これに関しては感染研のIDWR 20045号にも“サルモネラは試験管内では多くの抗菌薬に感受性があるが、臨床的に有効性が認められているものは、ABPC, FOM, FQに限られる”と記載されているところも支持されるところかと思います。

なお、Mandellには8%程度が菌血症を起こし、菌血症が持続したり、症状が強い場合には血管内感染が起こる可能性を考慮するべきとしております。中でも偽性動脈解離の像を呈する場合には要注意とのことです。こういう像があれば感受性にもよりますが、AMPC or CTRX6週間治療するそうです。ただし、こう言った症例は基本的には血管が脆くなった50歳以上と疫学的特徴があるようです。

チフスに関しては海外渡航者の下痢症の項を参考にしてもらえると、また学びが深くなるかと思います。


なお、便の塗抹で菌がほとんど見えなかった理由がちょっとわかりません。。。。何かご意見がいただければ大変うれしいです。

*抗菌薬前投与などはありません。



レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版 医学書院

微生物検査ナビ第2版 栄研化学株式会社

シュロスバーグの臨床感染症学

サンフォード感染症診療ガイド2021

https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/409-salmonella.html

Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases 9th edition ELSEVIER


# by sakai-infection | 2021-10-20 12:04 | Comments(0)