2025年 10月 22日
King of conteではないKOC -Klebsiella oxytoca complex-
症例は60代男性。肝不全および慢性心不全があり、多量の腹水貯留での呼吸困難を主訴に来院されました。腹水は穿刺排液し、その後心不全コントロール目的で入院されましたが、入院後5日目に血尿と39℃の発熱を認め、血液培養採取の上でCMZが開始されました。翌日・翌々日で4/4の血液培養が陽性となりました。

赤血球の周囲に太く・染色性がよく一様で先端が角ばった〜若干丸みのあるGNR

Pink→やや茶色っぽいコロニーに変化している(DHL培地)
今日はKlebsiella oxytocaについてです。
Kleb- ドイツの細菌学者であるEdwin Klebsにちなんで
-siella 女性の接尾辞
Oxy- 酸を
-toca 産生する
他のKlebsiellaとは塗抹上は見分けがつきにくいですが、コロニーの性状や色調が違うことは重要な点であり、またそれだけでも区別がつきにくい場合もあるという複雑なものとなっています。典型的には今回のもののように1-2日経過すると褐色〜茶色のコロニーに変化していきます。
これまでK. pneumoniae, K. variicola, R. ornithinoryticaに関しては薬剤耐性含め詳細を記載してきましたので、今回はK. oxytocaに関して記載したいと思います。その前に2023年のものになりますが、当院のKlebsiella属のantibiogramを示しておきます。
| ABPC | ABPC/SBT | PIPC/TAZ | CEZ | CTRX | CAZ | CFPM | CMZ | MEPM | LVFX |
K. pneumoniae | 0% | 80% | 95% | 86% | 90% | 90% | 90% | 100% | 100% | 92% |
K. variicola | 0% | 99% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% |
K. oxytoca | 0% | 74% | 91% | 14% | 93% | 99% | 96% | 100% | 100% | 96% |
K. aerogenes | 0% | 60% | 83% | 2% | 79% | 82% | 98% | 5% | 100% | 97% |
R. ornithinorytica | 0% | 93% | 100% | 90% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% |
2023年の当院のantibiogram。K. aerogenesが外せるならばCMZは100%
今回も2022年にCMRでreviewが出ており、ほとんどそこから抜粋です1。
全く知らなかったのですが、Klebsiella oxytocaは実際はgenome sequenceとbioinformaticsの結果、9種のcomplexで形成されており、K. grimonitii, K. huaxiensis, K. michiganensis, K. oxytoca, K. pasteurii, K. spallanzaniiとまだ名前のない3つの種で構成されているそうです(そのため本文ではKlebsiella oxytoca complex: KOCと記載)。重要なのがそれぞれ染色体性に保有するβ-lactamase遺伝子blaOXYの系統群に分かれているそうです(blaOXY-1〜blaOXY-9):つまりOXY-2があればK. oxytoca, OXY-4を有していればK. pasteuriiというように。なお、blaOXY-は1-12までのvariantがこれまで同定されています(過去のK1やKOXYと呼ばれるものがこれら)。また、それぞれの菌が少しずつ生化学的な特徴が異なることも記載されています(例えばK.oxytocaはurease陽性だがK. michiganensisはurease陰性)。また、今後MALDI-TOF-MSでもそれらの違いがdatabaseの拡充で示されるかもしれないことが論文中にも記載されています。
OXY遺伝子のみならず染色体性の耐性遺伝子としてはK. pneumoniae同様にEfflux pumpのコード遺伝子であるoqxA and oqxBがありますが、こちらはK. huaxiensis, K. spallanzaniiとun-named のtaxon1,3には認められないそうです。他にはfosmycin耐性遺伝子であるfosAはほとんどすべてのcomplexで有しているようです。
臨床像としては最も有名なのが抗菌薬関連出血性大腸炎であり、これはβラクタム・マクロライドやクリンダマイシン投与後1-7日で血性の下痢が生じ、抗菌薬中止後1-2日で改善するものです(個人的経験ではABPC/SBT使用中で多い)。これはtimimycinとtilivalineと呼ばれる2つの毒素由来で、腸上皮障害と出血性炎症を引き起こします。他にはUTIや菌血症、肺炎や腹腔内感染など、腸管定着性の菌である特徴通りの臨床像を示します。それだけでなく、院内outbreakも複数報告されており、これは水や環境を介して医療環境からの感染の可能性も十分に示唆しているものです。
次に薬剤感受性に関してです。非常に大規模なsurveillanceが実施されており、それには日本と中国からのnational surveyが含まれます。

Ref 1.
薬剤耐性ですが、まず重要なのがOXYになります。基本的には通常運転では低レベルの産生ですが、promotor領域のmutationによって過剰発現株が10-20%存在し、それによってペニシリン・アズトレオナムを効率よく加水分解することができます。また一般的な変異ではCTRX>CTXで効率よく、CAZへの分解効率は悪いようです。ただ、変異の位置がどこに入るかでCTRX, CTX, CAZへの加水分解効率は変わることもわかっています。なお、OXY β-lactamaseはCTX-Mの偽陽性を起こすこともあるようです2。PIPC/TAZの耐性もこれが主な要因であり、香港から12株のPIPC/TAZ高度耐性株の解析が出ていたり3、国内でもESBLのような表現型を示した株(遺伝子的にはOXY hyper)での検討ではPIPC/TAZにしっかりと耐性です。一方でCAZの感受性やCMZの感受性が保たれていることもそこでは示されています4。

黒いバーがoxytoca, 白いバーがpneumoniae :ESBLの表現型のKlebsiella pneumonia or oxytocaのM I C分布
Ref 4
それ以外には他の腸内細菌同様plasmid性に獲得したβ-lactamaseがあります。SHVはK. pneumoniaeでは染色体性ですが、K. oxytoca complexでは内在しないですが、plasmid性にK. oxytocaでも獲得している株が多数あるようです。ampCは内在性には有しませんが、こちらに関してもplasmid性の獲得株が複数報告されています。Carbapenemaseに関してはKPC-2,3, GES-5, GIM, IMP,NDM, VIM, OXA-48もすでに報告されています(GIM-1に関してはドイツの緑膿菌から、K. oxytocaに関してはUKで2010年に検出)。日本の株は全てこの論文のreviewではIMP-6とされています。ただ、インド・中国ではNDMであり、近年の国内のcarbapenemaseとしてはNDMが明らかに増えており、注意が必要かと思います。

Ref 1
ここまででKlebsiella(Raoultella含む)に関しての薬剤耐性に関してのまとめを記載しておきます。
K. pneumoniae | 染色体性にpenicillinaseを有する(SHV)1。Plasmid獲得型ESBL/ampCに注意 SHV領域に挿入遺伝子IS1Fが組み込まれ欠損型となるとABPCへ感性になるが、同時に高病原性遺伝子も有する株に注意5。 |
K. variicola | 染色体性にpenicillinaseを有する(LEN)6。キノロン耐性に関しては染色体性のoqxABが関与6。質量分析がないと菌名判別困難。 ただ今の所本邦ではESBL, ampC獲得頻度は高くないと考えられる7 |
K. oxytoca | 染色体性にK1 beta-lactamase(class A): blaOXYを有するが、発現量は株によって異なる1。 3rdくらいで治療が良い。CMZの感受性は担保されている。PIPC/TAZに耐性株もある3,4。Plasmid性のESBLを持っていなくても持っているような感受性になることもある (class Aなので単独でESBLスクリーニングで陽性となる場合も)2,8 |
K. aerogenes | 染色体性にAmpC beta-lactamaseを産生する遺伝子(blaAER)を有する)9。多くの株がampC hyperproducerであり、〜3rd・CMZに耐性と考えて治療する (4th 以上が妥当。本邦ではまだ非βラクタム系抗菌薬の感受性は比較的保たれている) *以前記載していたblaACTはEnterobacter cloacae complex由来10。 |
Raoultella (旧K.) ornithinolytica | 染色体性にclass Aβ-lactamaseを有する(LPA-1)11。この酵素は軽度ではあるがCFPM分解能もある。plasmid性にCTX-M, CMY-2, NDM-1, OXA-48などを保有している菌が報告あり12 生化学的にはK. oxytocaと極めて類似13するが、colonyの色調変化は認めない |
最後に、なぜDHLで茶色のコロニーになるかを調べてみました。古くは東京医科歯科大学からの報告でK. oxytocaによる抗菌薬関連出血性大腸炎の検体でbrown pigmentがDHL培地で認められた14、という記載があります。同様の記載がNaemuraの手法を用いた観察法としてJCMでもD-gluconate+ ferric citrate agerでbrown pigmentという記載が認められました15。またその理由としてはこの菌がFe3+と有機物とで褐色錯体を作ることに依存するようです。具体的にはFe3+-citrate存在下(DHLにはこの鉄源が含まれる)の培養で菌が細胞外多糖類(EPS)を多量に産生しそのEPSがFe3+を強力にキレートして沈着して、ferric hydrogel様の沈殿を形成し、これが褐色なのでコロニーが色調変化する、ということの様です16。
1: Clin Microbiol Rev. 2022;35(1):e0000621. PMID: 34851134
2: J Clin Microbiol. 2021;59(6):e00609-21. PMID: 33789961IF: 5.4 Q1
3: PLoS One. 2015;10(11):e0142366 PMID:26539828IF: 2.6 Q2
4: J Med Microbiol 2015;64(Pt 5):538-543 PMID:25813819IF: 2.0 Q3
5: BMC Infect Dis. 2024; 24(1):1215. PMID: 39468457IF: 3.0 Q2
6: mBio. 2018;9(6):e02481-18. PMID: 30563902IF: 4.7 Q1
7: Jpn Journal Infect Dis. 2025; JJID:2025.006
8: J Antimicrob Chemother. 2004;53(3):545-7. PMID:14963067IF: 3.6 Q2
9: Cell Rep. 2024;43(8):114602. PMID: 39137112IF: 6.9 Q1
10: Clin Microbiol Rev. 2009;22(1):161-82. PMID: 19136439IF: 19.3 Q1
11: Antimicrob Agents Chemother. 2004; 48(1):305-12. PMID: 14693555IF: 4.5 Q1
12: Infect Drug Resist. 2020;13: 1091-1104. PMID: 32346300IF: 2.9 Q2
13: 日本臨床微生物学雑誌 2016;26(2):58-62.
14: Bifidobacteria Microflora. 1993;12(1):31-37
15: J Clin Microbiol. 2000;38(4):1495-1497. PMID: 10747132IF: 5.4 Q1
16: J Appl Microbiol. 2009;107(4):1241-50. PMID: 19508299IF: 3.2 Q2

