2026年 04月 08日
血液培養の仕組みとどの機械・キットを使うかで異なることを理解する
例年通り血液培養の仕組みに関して。Vitek2のMICが安定しないってどういうこと?もAIにかかれば理由も即答してくれます。今日のレクチャーでは技師の先生に血液培養の機械から質量分析までの一連を実際にデモンストレーションしてもらってやるという、blogでは伝わらないものとしています。
非常に多くの検査で言えるのですが、検査の方法は機械によって異なります。例えばコロナのPCRの検査に関しても施設によって機械が違い、検査に要する時間や一度に処理できる検体の数も違います。そればかりか、検査方法が異なることで基準値が異なったりすることもあり、その施設でどういった装置を導入しているか、またそれの結果の解釈を知ることは必須です(βD-glucanはどの方法なのか必ずcheckを:陽性の基準値も異なります)。
当院ではBD社のBACTEC®︎というシステムの血液培養装置を使用していますが、国内では、もう一つBaCT/Alert®️のいずれかが使用されていることがほとんどかと思います。

Ref .1
BACTEC®︎ | BacT/Alert®︎ | |
菌発育の感知 | CO2 | CO2 |
原理 | 微生物の増殖により発生したCO2がボトル底部のセンサーのpHを変化させ、これが蛍光色素層に作用し、蛍光が発生。これを蛍光検出センサーが感知し陽性のサインを出す | 微生物の増殖により発生したCO2がボトル底部のセンサーのpHを変化させ(緑⇒黄色)これが発光ダイオードと光検出器により測定される反射光量により陽性のサインを出す |
ボトルの種類 | 通常の嫌気・好気の他に小児用、真菌・抗酸菌用がある | 通常の嫌気・好気の他に小児用がある |
ボトルの収容量 | 50,120,200,240,400 | 120,240 |
測定間隔 | 10分毎 | 10分毎 |
ともに菌によってCO2がボトル内で増加し、それによってボトル内のpHが変化することで陽性をキャッチするという方法です。
pHの低下を血液培養ボトル内のセンサー(蛍光orカラー)が検出し、陽性アラームが鳴るという仕組みです。

Ref 2:https://microbeonline.com/bactec-automated-blood-culture-system/

では、ボトル内でのpHの変化がどのように起こるか?についてです。
菌が増殖・活動するためにはエネルギーが必要です。菌には好気性と嫌気性の菌があります。好気性菌は酸素を介した好気呼吸による代謝でエネルギーを得ますが、嫌気性菌は酸素がある状況下では生存が困難であり、酸素を介さない嫌気呼吸や発酵という過程を経てエネルギーを獲得します。
pHに影響を与えるのはその代謝・発酵が重要となります。CO2のみならずグルコースから乳酸などの酸の産生によってpHは影響を受けることも、重要な点です。
C6H12O6→2CH3CH(OH)COOH (グルコース→乳酸)
このCOOHのH+が電離して酸性に偏り、pHが下がります。
グルコースの代謝
C6H12O6+6O2→6CO2+6H2O
CO2+H2O→H2CO3→HCO3- + H+
でpHが低下します。
一方プロテウスなどのアンモニア産生菌の場合、アミノ酸分解も同時に起こります。
RCH(NH2)-COOH+H2O→R-COOH+NH3となってアンモニアによりpHが上昇するかもしれませんが、通常は発酵が優勢なのでpHは下がります。
大腸菌を例にとると、最初は1CFUであった菌が分裂するのには20分かかります。でもその20分後には理論上は4個、さらにその20分後には8個になります。そうすると最初の20分は1個しか増えなかったのに、3時間20分(200分後)から3時間40分にかけては1024個、その20分後には2048個増える。つまり単純計算で2xという増え方をします。菌が増えることによって代謝が加速されるため、最初はほとんど動かなかったpHも等比数列的な上昇を示します。また、最初のボトル内の菌量が多い場合には早く血液培養は陽性になるというのも頷けるかと思います(contaminationで時間がかかるのは最初の菌量が少ないから)。

わざわざこのようなことを説明する理由は、血液培養にも偽陽性というものがあることを知ってもらうためです。血液培養の最終判断というのはボトル内容にグラム染色を実施して、報告され、そこで菌が認められない場合に偽陽性を考慮するところとなります。つまり、グラム染色で染まらない菌:播種性抗酸菌症が真の感染症では該当します。一方で病歴として白血病など白血球数が異常高値となっている患者でも偽陽性が起こり得ます3。これは、細胞の呼吸・代謝・細胞死によってもCO2は産生されることに起因すると考えられます。菌が増殖する以外にも強酸性の物質が生成されたり、CO2が集積する経路があれば、pHの変化が起こり、機械が陽性として報告すると言うことは簡単に想像できるところかと思います。もう一つ大事なこととしては、菌によって分裂時間が異なるということです(もちろん環境によっても分裂時間は異なります)4。結核が培養に時間がかかるのもこのためです5。そのため、菌の種類によって血液培養が陽性になるおおよその時間は異なるということも重要です6。また、栄養が多ければ増殖スピードも上昇するので、菌が栄養を受けやすい環境に培地を設定することも重要な点となります。そういった点から、当院では嫌気性菌ボトルは溶血ボトルにすることでその感度を上げようと試みているところです。
菌 | 25%が陽性になるまでの時間 | 50%が陽性になるまでの時間 | 75%が陽性になるまでの時間 |
腸内 | 9.6 | 11.28 | 13.68 |
非発酵菌 | 12.84 | 16.92 | 19.32 |
コアグラーゼ陰性ブドウ球菌 | 13.2 | 16.32 | 19.92 |
腸球菌 | 12.72 | 13.92 | 15.84 |
肺炎球菌 | 8.64 | 10.56 | 12 |
黄色ブドウ球菌 | 9.84 | 12.48 | 16.32 |
Clostridium sp | 8.28 | 11.16 | 25.2 |
Bacteroides sp | 24.48 | 28.8 | 39.6 |
Candida sp | 25.98 | 39.96 | 50.12 |
Ref 6
なお、血液培養はset数が多ければ多いほど、採取の血液量が多ければ多いほど感度は上がるとされますが、基本的には血液培養ボトルにつき5-10ml程度と考えると外れることがないこと、contaminationが一定の確率で起こり得るため、必ず2セットは最低採取することが推奨されています7,8。ちなみに、血液培養の採取した際の菌量は<1-10CFU/mLと極めて少ないので9、覚えておきましょう。

Ref 7より作成
ここから、細菌検査室から“患者の血液培養陽性報告”が来ることになります(ここまででは、血液培養は陽性となりました、以上の情報はない上に、前述のように偽陽性の可能性もあります)。そのため検査室では、血液培養ボトルから直接血液を抜き取って、それをグラム染色して実際に顕微鏡で確認してグラム陽性菌・グラム陰性菌という風に報告を返します。
更にそこから培地へのサブカルチャーを実施(血液寒天培地・チョコレート寒天培地・BTB /マッコンキー/DHLなどの培地に塗る)して、培地で生えたコロニーを観察、そこからカタラーゼやオキシダーゼなどの生化学的特徴を複数実施(多くは自動化機器で実施するものの、菌によってはAPIなどの手動検査も)し、菌名と同時に感受性結果が得られる、ということになります。

血液培養陽性→そこから再度培養→生化学+感受性検査になるため、結果返には時間がかかります。この自動化機器にはBD社のmicroscan Walkaway(当院はこれを使用)やBiomerieuxのVitek 2があります。これらの比較をgemini proに作成してもらったのが下の表になります。

各検査でMICのばらつきもあるため、注意が必要です(比較の論文は複数あります)。

Ref 10
近年では血液培養ボトルから直接質量分析装置で菌名を同定することも可能となってきていますが、これだけであれば薬剤感受性は不明であり(ただ、持っている耐性遺伝子も質量分析でわかるようにもなってきています)

Ref 11
検査室はこのような経過を経て、最終報告(感受性結果に応じた追加の耐性遺伝子検査や再検などを更に経ることも)しています。
なお、全然関係ないですが、最初の方で記載したβD-glucanはカブトガニの血液から作られた試薬を用いて測定されています。このとき実施されているリムルステストは北米に生息するカブトガニ:Limulus Polyphemusの属名からというのも記載されているβD-グルカンの歴史みたいな原著は一読の価値があるものと信じて疑いません12。せっかくなのでその原理をここに記載しておきます。前述したカブトガニの血液抽出物(LAL試薬:リムルス試薬)に含まれるG因子がβ-D-glucanによって特異的に活性化される酵素反応を利用したものです。比色法はこの最終産物である凝固酵素が試薬に含まれる発色合成基質を切断し、黄色い色素が遊離して、この吸光度を測定することで求められます。一方で比濁法は試薬中の凝固タンパクを切断し、coagulinを生成。これが重合体を形成し、白濁するその濁度に至る時間までで濃度を計測するとのことです。それぞれcut-offが違うのはそれぞれの会社ごとで独自の真菌から抽出したβDglucanを自社基準の標準としていることに由来するようです(これは引用元は不明:AIが教えてくれました)。なお、京都大学の土戸先生らの昨年の報告で13、比色法の新製品:βD-glucan single M30 test WAKOの感度・特異度が示されていますが、optimal cutoffは6.7pg/ml(感度:73.2%, 特異度99%)で陽性的中率0.204, 陰性的中率は0.99とのことでした。3商品の比較をこれまたgemini proに作ってもらいました。Fact checkはしてないっす。

1: 臨床微生物検査ハンドブック第4版 三輪書店
2: https://microbeonline.com/bactec-automated-blood-culture-system/
3: Aerobic vs Anaerobic blood culture by Magnolia
https://magnolia-medical.com/blog/aerobic-vs-anaerobic-blood-culture/
4: Appl Environ Microbiol. 2013;79(12):3619-3627. PMID: 23563938
5: PLoS One. 2020;25(4):e0230927. PMID: 32243457
6: Int J Infect Dis. 2015;41:6-10. PMID: 26482387
7: J Clin Microbiol. 2007;45(11):3546-8. PMID: 17881544
8: BD 血液培養実践マニュアル 第2版 https://www.bdj.co.jp/micro/ketsubai/ketsubai-manual-2.html
9: PLoS One. 2022;17(4):e0267491. PMID: 35468169
10: J Clin Microbiol. 2006;44(3):1101-1104. PMID: 16517904
11: https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/MM1204_02.pdf
12: Medical Mycology Journal. 2017;58(4):141-147
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mmj/58/4/58_17.020/_article/-char/ja/
13: Med Mycol. 2025;63(11):myaf105. PMID: 41211744

