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*今日の論文は引用文献8 (J Infect 2022; 84(4):511-517. PMID: 35114301IF: 28.2 Q1 )highlightです。

本日の症例は特殊な背景を持つ80代男性です。進行胃癌術後で術後抗癌剤内服(S-1)が投与されていました。搬送された日ですが、夕食はほとんど食べず、巡回の際に意識がなかったため、当院に搬送となりました。暖房のない環境で布団もかけていなかったこともあり、来院時には29℃台の低体温と、意識障害を認めました。画像上、活動性の感染を示唆するような所見はありません。ただ、義歯はありませんが、複数歯が脱落している状況で、口腔環境は非常に悪い状況です。血液検査ですが、WBCCRPが軽度上昇している程度です。血液培養採取して抗菌薬freeで補液・復温を行い初期治療を開始。意識レベルは徐々に改善しましたが、翌日の胸部レントゲン画像で右下肺に浸潤影を認め、誤嚥が考慮されて喀痰採取の上でABPC/SBTが開始されましたが、同日入院時の血液培養が陽性となったという報告を受けました。


非常に小型のGPCchainに見える部分が多いですが、cluster状に集簇しているだけで像も認められます。

培地としては、弱いα溶血がある非常に小さなコロニーが形成されました。

Rothia→Aerococcus→IEの起因菌として注目すべきStreptococcus-like bacteria_d0402367_14171342.jpg

最終的にこの菌は質量分析によってGemella sanguinisと同定されました。

今日はRothiaAerococcusと来て、Gemellaに関してです。こちらに関しては最近のDukes分類でも大基準のtypical organismsとして記載されており1、市民権を得ていると考えられます(なお、2023年のDukes/ISCVID criteriaに関しての検証に関してが特集で2024Feb.8thClin Infect Disで組まれております。非常に多くのN数での検討がなされておりますが、往々にして感度は2000年のcriteria2015年のESCのものと比較して高いものの、特異度が軒並み低下している点が指摘されています)。

Gemellaは上記の記載の通り感染性心内膜炎の起因菌として注意が必要な菌です。青木先生の感染症レジデントマニュアル第42でも、“栄養要求性連鎖球菌と似た性質があり、このグループもStreptococcus anginosus群の連鎖球菌と同様に多少長めの治療が必要かもしれない“、と言及されています。さらにアミノ配糖体の併用が2015年のcirculationの記載を根拠に勧められています3

Rothia→Aerococcus→IEの起因菌として注目すべきStreptococcus-like bacteria_d0402367_14171310.jpg

Gemella属はシュロスバーグでは近年計6菌種(G. haemolysans, G. morbillorum, G. bergeriae, G. sanguinis, G. cuniculi, G. palaticanis)を含むまでに拡大していると記載され4、近年多様性が認められる様になっています。カタラーゼ陰性の通性嫌気性菌であり、口腔を含む消化管の常在菌です。最近の論文ではこの6種類以外にもG.asaccharolytica, G, parahaemolysans, G. taiwanensis、およびG. massiliensisが加わって10種類となっています5。ただ、ヒトでの感染症の報告例はG. morbillorumが一番多いと考えられます。実際に当院でも過去の分離菌としてもG. morbillorumがありました。IEriskはそれなりに高いですが、CirculationStreptococcal BSIIEresearch articleにはGranulicatellaの記載はあるものの、Gemellaは記載されていません6IE以外の感染症としては二次性腹膜炎や術後創部感染(髄膜炎含む)などがpubmedでは認められています。

Rothia→Aerococcus→IEの起因菌として注目すべきStreptococcus-like bacteria_d0402367_14171421.jpg

NVSGemellaに関してはこの論文ではなく、たびたび引用させてもらっている山本剛先生にご紹介いただいたStreptococcus-like bacteriaによるIEのコホートstudyがそのIEriskを物語っていると考えます。この論文ではこれらの菌のNOVA/DENOVA/HANDOC scoreなどの他のIEscore systemの有効性に関しても論じているので、非常に参考になります7。他にも同様の報告をChesdachaiらがしており、好中球減少などの様々なrisk因子に関しても記載されています8

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治療としては上記の通り、IEに関しての言及がほとんどであり、過去のcase seriesliterature reviewが参考にされています。その中心はAMPC or CTRX 6週間+GM 最初の2週間でした9G. sanguinisに絞ったIEliterature review13症例のまとめであり、弁置換術が多いことが言及されています10

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一般的なbacteremiaに関しての治療期間はほとんど言及されていませんが、多くは他の菌との複合感染のものですが、ABPC/SBT 16日間11や、FMOX 7日間12などの症例報告があり、感受性がある抗菌薬単剤加療を10日前後と考えて良いかと思います(Perplexityで検索するとIEの治療期間ばかり言及されて6週間と出てきましたorz)

最後に薬剤感受性に関してです。β-lactamへの感受性はAbiotrophiaGranulicatellaよりも担保されている可能性が高いと考えられます5,8。その他のclassに関しての感受性ですが(G. sanguinis3株のみ)、本邦での分離株に関しての検討があります8。マクロライド耐性に関してはmefA/EまたはermBによるものであり、クリンダマイシン耐性であればermΒによるものであると考えられます(特にG. morbillorumではermB陽性株が多く分離)。テトラサイクリン系はtetM由来であり、キノロンの耐性はやはりgyrA mutationということです。なお、併用役として多く使われているゲンタマイシンに関しては<=1-8 rangeであり、高用量GM耐性を認めた株はなかったとのことでした。

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患者は大量補液と抗菌薬・復温・カテコラミン使用などにしっかりと反応し、治療経過中ですが軽快転院されました。

1: Clin Infect Dis. 2023;77(4):518-526. PMID: 37138445 IF: 11.8 Q1

2: レジデントのための感染症診療マニュアル第4版 医学書院

3: Circulation. 2015;132(15):1435-86. PMID: 26373316 IF: 37.8 Q1

4: シュロスバーグの臨床感染症学 2nd edition MEDSi

5: Antibiotics (Basel). 2023;12(10):1538. PMID: 37887239 IF: 4.8 Q1

6: Circulation 2020;142(8): 720-730. PMID: 32580572 IF: 37.8 Q1

7: Open Forum Infect Dis. 2019;6(10):ofz437. PMID: 31667201 IF: 4.2 Q2

8: J Infect 2022; 84(4):511-517. PMID: 35114301 IF: 28.2 Q1

9: Open Life Sci. 2023; 18(1):20220599

10: Int J Surg Case Rep. 2020;69:51-54. PMID:32276216 IF: 0.6

11: IDCases 2018;12:133-135. PMID: 29942771 IF: 1.5

12: Gynecol Minim Invasive Ther 2017;6(2):79-81. PMID: 30254882 IF: 1.2


# by sakai-infection | 2024-02-14 14:21 | Comments(0)

*今日の論文は引用文献8 (J Infect 2022; 84(4):511-517. PMID: 35114301IF: 28.2 Q1 )highlightです。

本日の症例は特殊な背景を持つ80代男性です。進行胃癌術後で術後抗癌剤内服(S-1)が投与されていました。搬送された日ですが、夕食はほとんど食べず、巡回の際に意識がなかったため、当院に搬送となりました。暖房のない環境で布団もかけていなかったこともあり、来院時には29℃台の低体温と、意識障害を認めました。画像上、活動性の感染を示唆するような所見はありません。ただ、義歯はありませんが、複数歯が脱落している状況で、口腔環境は非常に悪い状況です。血液検査ですが、WBCCRPが軽度上昇している程度です。血液培養採取して抗菌薬freeで補液・復温を行い初期治療を開始。意識レベルは徐々に改善しましたが、翌日の胸部レントゲン画像で右下肺に浸潤影を認め、誤嚥が考慮されて喀痰採取の上でABPC/SBTが開始されましたが、同日入院時の血液培養が陽性となったという報告を受けました。


非常に小型のGPCchainに見える部分が多いですが、cluster状に集簇しているだけで像も認められます。

培地としては、弱いα溶血がある非常に小さなコロニーが形成されました。

Rothia→Aerococcus→IEの起因菌として注目すべきStreptococcus-like bacteria_d0402367_14171342.jpg

最終的にこの菌は質量分析によってGemella sanguinisと同定されました。

今日はRothiaAerococcusと来て、Gemellaに関してです。こちらに関しては最近のDukes分類でも大基準のtypical organismsとして記載されており1、市民権を得ていると考えられます(なお、2023年のDukes/ISCVID criteriaに関しての検証に関してが特集で2024Feb.8thClin Infect Disで組まれております。非常に多くのN数での検討がなされておりますが、往々にして感度は2000年のcriteria2015年のESCのものと比較して高いものの、特異度が軒並み低下している点が指摘されています)。

Gemellaは上記の記載の通り感染性心内膜炎の起因菌として注意が必要な菌です。青木先生の感染症レジデントマニュアル第42でも、“栄養要求性連鎖球菌と似た性質があり、このグループもStreptococcus anginosus群の連鎖球菌と同様に多少長めの治療が必要かもしれない“、と言及されています。さらにアミノ配糖体の併用が2015年のcirculationの記載を根拠に勧められています3

Rothia→Aerococcus→IEの起因菌として注目すべきStreptococcus-like bacteria_d0402367_14171310.jpg

Gemella属はシュロスバーグでは近年計6菌種(G. haemolysans, G. morbillorum, G. bergeriae, G. sanguinis, G. cuniculi, G. palaticanis)を含むまでに拡大していると記載され4、近年多様性が認められる様になっています。カタラーゼ陰性の通性嫌気性菌であり、口腔を含む消化管の常在菌です。最近の論文ではこの6種類以外にもG.asaccharolytica, G, parahaemolysans, G. taiwanensis、およびG. massiliensisが加わって10種類となっています5。ただ、ヒトでの感染症の報告例はG. morbillorumが一番多いと考えられます。実際に当院でも過去の分離菌としてもG. morbillorumがありました。IEriskはそれなりに高いですが、CirculationStreptococcal BSIIEresearch articleにはGranulicatellaの記載はあるものの、Gemellaは記載されていません6IE以外の感染症としては二次性腹膜炎や術後創部感染(髄膜炎含む)などがpubmedでは認められています。

Rothia→Aerococcus→IEの起因菌として注目すべきStreptococcus-like bacteria_d0402367_14171421.jpg

NVSGemellaに関してはこの論文ではなく、たびたび引用させてもらっている山本剛先生にご紹介いただいたStreptococcus-like bacteriaによるIEのコホートstudyがそのIEriskを物語っていると考えます。この論文ではこれらの菌のNOVA/DENOVA/HANDOC scoreなどの他のIEscore systemの有効性に関しても論じているので、非常に参考になります7。他にも同様の報告をChesdachaiらがしており、好中球減少などの様々なrisk因子に関しても記載されています8

Rothia→Aerococcus→IEの起因菌として注目すべきStreptococcus-like bacteria_d0402367_14171406.jpg

治療としては上記の通り、IEに関しての言及がほとんどであり、過去のcase seriesliterature reviewが参考にされています。その中心はAMPC or CTRX 6週間+GM 最初の2週間でした9G. sanguinisに絞ったIEliterature review13症例のまとめであり、弁置換術が多いことが言及されています10

Rothia→Aerococcus→IEの起因菌として注目すべきStreptococcus-like bacteria_d0402367_14171451.jpg

一般的なbacteremiaに関しての治療期間はほとんど言及されていませんが、多くは他の菌との複合感染のものですが、ABPC/SBT 16日間11や、FMOX 7日間12などの症例報告があり、感受性がある抗菌薬単剤加療を10日前後と考えて良いかと思います(Perplexityで検索するとIEの治療期間ばかり言及されて6週間と出てきましたorz)

最後に薬剤感受性に関してです。β-lactamへの感受性はAbiotrophiaGranulicatellaよりも担保されている可能性が高いと考えられます5,8。その他のclassに関しての感受性ですが(G. sanguinis3株のみ)、本邦での分離株に関しての検討があります8。マクロライド耐性に関してはmefA/EまたはermBによるものであり、クリンダマイシン耐性であればermΒによるものであると考えられます(特にG. morbillorumではermB陽性株が多く分離)。テトラサイクリン系はtetM由来であり、キノロンの耐性はやはりgyrA mutationということです。なお、併用役として多く使われているゲンタマイシンに関しては<=1-8 rangeであり、高用量GM耐性を認めた株はなかったとのことでした。

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患者は大量補液と抗菌薬・復温・カテコラミン使用などにしっかりと反応し、治療経過中ですが軽快転院されました。

1: Clin Infect Dis. 2023;77(4):518-526. PMID: 37138445 IF: 11.8 Q1

2: レジデントのための感染症診療マニュアル第4版 医学書院

3: Circulation. 2015;132(15):1435-86. PMID: 26373316 IF: 37.8 Q1

4: シュロスバーグの臨床感染症学 2nd edition MEDSi

5: Antibiotics (Basel). 2023;12(10):1538. PMID: 37887239 IF: 4.8 Q1

6: Circulation 2020;142(8): 720-730. PMID: 32580572 IF: 37.8 Q1

7: Open Forum Infect Dis. 2019;6(10):ofz437. PMID: 31667201 IF: 4.2 Q2

8: J Infect 2022; 84(4):511-517. PMID: 35114301 IF: 28.2 Q1

9: Open Life Sci. 2023; 18(1):20220599

10: Int J Surg Case Rep. 2020;69:51-54. PMID:32276216 IF: 0.6

11: IDCases 2018;12:133-135. PMID: 29942771 IF: 1.5

12: Gynecol Minim Invasive Ther 2017;6(2):79-81. PMID: 30254882 IF: 1.2


# by sakai-infection | 2024-02-14 14:21 | Comments(0)

本日の症例は80代女性です。施設入所中、発熱を職員が指摘して救急要請されました。

認知機能の低下もあり、本人の訴えは判然としないものの、左下腹部から背側にかけての厚痛を認めます。CVA叩打痛ははっきりしませんでした。画像上両側性の尿管結石と腎盂の拡大がありました。UTIとして尿・血液培養採取の上、CTRX投与で治療を開始、翌日DJステントが留置されましたが、血液培養4/4で陽性の報告が21-38時間でありました。尿の塗抹所見をひとまず示し、その次に血液培養の結果を示します。


クラスター様の部分とchainの部分が混在して認められる

カタラーゼ陰性で、α溶血を認めるGPC clusterによるUTI_d0402367_11482716.jpg

コロニー性状は非常に小型なコロニーで非常に軽度のα溶血を認めました。


尿路感染症で問題となるGPCといえば複雑性の場合腸球菌が、そして単純性の場合のStaphylococcus saprophyticusがあります。今回の菌はそのどちらでもなく、Aerococcusです。Streptococcusmisidentifyされる菌という枕詞で始まる菌になりますが、この菌で検索するとIEなどの血管内感染の症例報告が目立ちます12019年の連鎖球菌様の菌による心内膜炎のコホートstudyでもGranulicatellaGemellaよりも頻度が高いことが記載されています2。この菌を手っ取り早くこの菌を理解するのには引用文献7を読めばいいと思います。

カタラーゼ陰性で、α溶血を認めるGPC clusterによるUTI_d0402367_11482703.jpg

実臨床では高齢男性(性差あり)の尿路感染症で、ほぼ全例で基礎疾患があるとされています3。最近の質量分析では正確な同定が可能になってきていますが、生化学的性状での同定方法であるAPI-20 Strep(ver.6.9)では、この菌は含まれておらず、Streptococcus acidominusと同定される可能性が示唆されています1。青木先生の感染症診療マニュアルにもMandellにもこの菌の記載がありませんが、シュロスバーグでは種々のグラム陽性菌(chapter 161)に記載があります4。そこでは7種類のAerococcus属に属する菌があり、A. urinaeA. viridansの違いとして、生化学的な違い(A. urinaePYR:ピロリドニルアリルアミダーゼ neg, LAP:ロイシンアミノペプチダーゼ pos, A. viridansはその逆)が記載されております。数年前の検査と技術でその生化学的な特徴での菌同定flow chartがあり、質量分析などがない場合には極めて重要なところかと思います5

またtime-kill studyでは血管内感染において、bactecidalな治療効果を得るためにはアミノ配糖体を含めた併用療法の必要性が示唆される、と記載されています2。実際に過去のliterature reviewでもほとんどの症例でβ-ラクタムに加えてアミノ配糖体が使用されていました1。これは古い論文ではあるものの、ペニシリンとアミノ配糖体のシナジーが報告されたことに由来しますが6、近年のより菌株の多い検討ではシナジーは分離株のうち少数でしか確認できなかったとされています7

カタラーゼ陰性で、α溶血を認めるGPC clusterによるUTI_d0402367_11482713.jpg

そういった背景からか、


近年のbacteremiaの報告では、ほとんどがβ-ラクタム系抗菌薬の単剤治療が実施されていました3


グラム染色所見に関してはやはり永田先生の感染症診断に役立つグラム染色に記載がありました8。そこには“形態がブドウ球菌に類似するカタラーゼ陰性のグラム陽性球菌で緑色連鎖球菌様のα溶血集落を形成する”。です。ブドウ球菌様の形態でかつα溶血集落がこの菌を疑う指標になると記載されています。その上で、本文ではないのですが、尿の所見のところに、血液培養ほどのクラスターは観察されないがブドウ球菌を疑う形態が認められると記載されておりました。

感受性に関してですが、基本的には多くのβ-ラクタム系抗菌薬とバンコマイシンには感性です。ペニシリンよりもCTRXなどのセファロスポリンのMICが高いもの特徴の一つかと思います。キノロンの耐性は他のGPCと同様にDNAジェイレース・トポイソメラーゼIVというtargetpoint mutationに依存します。一方でこの菌による尿路感染症をキノロンで治療した場合の失敗症例に関しては報告がないため、尿へのキノロンの濃度以降を考慮した場合にはbreakpoint設定は妥当なのかどうか?を提議している論文も認められました(あくまで尿路感染症に関してです)9。また、A. urinaeではありませんがA. viridansではvanA遺伝子を有するバンコマイシン耐性株もお隣の韓国から報告されており、注意が必要かと思います10

カタラーゼ陰性で、α溶血を認めるGPC clusterによるUTI_d0402367_11483095.jpg

注意するべきはST合剤であり、CLSIでも2011年のHumphriesらの報告を引用しており11,12、チミジン含有の培地で感性を示すことがあるものの、尿の葉酸濃度に感受性が依存するため(食事内容で変動する)、ST合剤に関しての臨床的効果に関しての検討がない現状を考慮するとA. urinaeに関してはSTの感受性試験は実施するべきではないと記載されております12。なお、本症例はCTRXで経過良好の様です。

1: Infection. 2002;30(5):310-3. PMID:12382093 IF: 7.5 Q1

2: Open Forum Infect Dis. 2019;6(10):ofz437. PMID: 31667201 IF: 4.2 Q2

3: Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2022;41(5):751-760. PMID: 35257275 IF: 4.5 Q2

4: シュロスバーグの臨床感染症学

5: 検査と技術 2019;47(1):43-49

6: J Antimicrob Chemother.2001;48(5):653-8. PMID:11679554 IF: 5.2 Q1

7: Clin Microbiol Infect. 2016;22(1):22-27. PMID: 26454061 IF: 14.2 Q1

8: 感染症診断に役立つグラム染色 第3版 p.85 Signe

9: J Clin Microbiol. 2014;52(6):2177-80. PMID: 4242804

10: Ann Lab Med. 2017;37(3):288-289. PMID:28224779 IF: 4.9 Q1

11: J Clin Microbiol. 2011;49(11):3934-3935. PMID: 21918023 IF: 9.4 Q1

12: Methods for antimicrobial dilution and disk susceptibility testing of infrequently isolated or fastidious bacteria. Chapter 4, table 2. CLSI M45 3rd edition


# by sakai-infection | 2024-02-07 11:52 | Comments(0)

今回は70代女性。右CVA叩打痛ありますが、左尿管に画像上stoneがあります。

尿は大腸菌>>Proteus mirabilis, 血液培養からはProteus mirabilisが検出された症例(いずれもCEZ感性であり、empiricalCMZでの治療後にCEZde-escalation)です。

何故尿路感染症の起因菌は絶対的に大腸菌なのか?_d0402367_14095366.jpg
何故尿路感染症の起因菌は絶対的に大腸菌なのか?_d0402367_14094995.jpg

尿路感染症といえば大腸菌が最も考えやすい、というのは疫学的に誰が見ても明らかです1

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小腸は空気が存在しやすく、通性嫌気性菌が多く存在し、下部消化管である大腸はほとんど無酸素状態であり、偏性嫌気性菌が爆発的に増えます2。実際に2003年のlancetの総説でもBacteroides, Bifidobacterium, Eubacterium, Clostridium, Peptococcus, Peptostreptococcus, and Ruminococcus are predominant, whereas aerobes (facultative anaerobes) such as Escherichia, Enterobacter, enterococcus, klebsiella, lactobacillus, proteus, etc are among the subdominant genera. と記載されています3。これらはProteobacteriaに属しますが、例えばHIVの日本の患者の便を調べた検討では、top 20に入る菌には大腸菌は含まれず、代わりに尿路感染症として問題になるものとしてはStreptococcusおよびPrevotellaくらいしかありません4

何故尿路感染症の起因菌は絶対的に大腸菌なのか?_d0402367_13433078.jpg

尿路感染症が、腸内の菌が外尿道を通って上行性に感染症を引き起こす際に、酸素がある環境で嫌気が生きていけずに感染が起こらない、ということは説明がつきますが、それであれば大腸菌ではなくStreptococcusPrevotellaが尿路感染症の多くを占めるのでは?と考えられるかと思います。では、なぜ大腸菌なのでしょうか?

尿路感染症の発症は、菌が膀胱粘膜に付着し、その上でヒトの免疫に打ち勝った上で菌が増殖するのが発生機序となります。大腸菌の中でもUPEC (uropathogenic E. coli)がこれを可能にしているのですが、一番最初の粘膜付着を効率よくできるP線毛(P fimbriae)によるメカニズムで5。そこから生態が身を守っているメカニズムも通常では働いており、これに関してすごくわかりやすい内容が腎臓学会誌に記載されておりますので、必読です6。今回なぜこの話をするか?というのは結局菌としては侵入後定着、増殖という過程を経て基本的には感染症を引き起こすということを考えるためです。

ということで今回もProteusです。Proteus mirabilisはウレアーゼ産生菌です。ウレアーゼは尿素を分解する酵素であり、二酸化炭素とアンモニアがこの酵素によって産生されます。これによって尿はアルカリ性になり、その尿の中で尿中のリン酸とアンモニアが結合し、リン酸アンモニウムマグネシウム結晶ができます。さらにカルシウム結晶の産生を可能にし、これによって自身が定着するべき足場を作ることができます7。また、運動性、カプセルポリサッカライドとefflux pumpなどによって、この菌はbiofilmを産生し定着していくという特徴があるからです。Biofilmによって異物に定着しながら、組織への侵入を進めていきますので、それほど多くの菌が検出されることなく、侵襲性の感染が引き起こされると考えられます8。こういった特徴からも尿路感染によるものであれば、尿道留置カテーテルの入れ替えや結石などの排出などの処置が治療に重要であると考えられています。

何故尿路感染症の起因菌は絶対的に大腸菌なのか?_d0402367_13433008.jpg

余談ですが、日本の入院患者の尿路感染症に関してのサーベイランスの論文が出ており、そこでは菌名の記載はないのですが、夏場に多く、高齢女性で認められるという結果でした9。ただ、この論文でなぜ夏場に多かったかは不明とされており、他諸国の結果とは一線を画していた結果の様です(米国では冬に多く、死亡例も多いという論文の引用もありました10)。発汗や飲水などの行動に関連しているのでしょうか?皆さんの体感はいかがでしょうか?

何故尿路感染症の起因菌は絶対的に大腸菌なのか?_d0402367_13433033.jpg

1: J Int Med Res. 2020;48(2):300060519867826. PMID: 31510836 IF: 1.6 Q4

2: 腸内細菌学会 FAQ https://bifidus-fund.jp/FAQ/FAQ_02.shtml

3: Lancet. 2003;361(9356):512-9. PMID: 12583961 IF: 168.9 Q1

4: J Infect Chemother 2024;30(1):58-66. PMID:37708940 IF: 2.2 Q4

5: Int J Antimicrob Agents 2002;21(6):605-21. PMID:13678032 IF: 10.8 Q1

6:日腎会誌 2016;58(1):17-25

7: Microbiol Spectr. 2015;3(5):10.1128/microbiolspec.UTI-0017-2013 IF: 3.7 Q2 . PMID:26542036 IF: 3.7 Q2

8: Front Cell Infect Microbiol 2020; 10:414 PMID:32923408 IF: 5.7 Q1

9: BMC Infect Dis 2021;21(1):1048. PMID: 34627171 IF: 3.7 Q3

10: Ann Epidemiol. 2003;13(2):144-50. PMID:12559674 IF: 5.6 Q1


# by sakai-infection | 2024-01-31 13:44 | Comments(0)

粘稠度の高いGPC cluster?

40代女性。乳がん術後再発に対して化学療法を実施。好中球減少のタイミングで発熱あり。症状としては口内炎は明らかでないものの、口腔内全体の疼痛を認めました。血液培養採取ののち、CFPMが開始されましたが、翌日血液培養より3/4Streptococcus mitis/oralis, 2/4同一セットでStreptococcus salivarius, 2/4同一セットで以下の菌が陽性となった(すぐに同定できず)、という症例です。

粘稠度の高いGPC cluster?_d0402367_13374190.jpg

菌名からはやはり口腔または消化管からのentryが予想されるところです。この菌はMALDI-TOF-MSで最終的にRothia mucilaginosaと同定されました。MALDI TOF-MSが一般診療に組み込まれるようになって、以前は同定がしっかりとされなかった菌の検出頻度が増えているのは実感しているところかと思います。この辺りのrareな菌に関してはベクトンディッケンソンで大楠先生が月に一回行っているwebinar: 菌トレとそのバックナンバーを見れば大体記載されており、今回のRothia mucilaginosaもその例外ではありません(37回に記載)1 。そこではcolony性状も記載され、今回の菌同様に粘稠性の高いコロニーであることも記載されています。

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RothiaMandellにはほんの少しの記載しかありません。Viridansのところの記載で、そのまま引用します2Rothia mucilaginosa (formerly Stomatococcus mucilaginosus)はグラム陽性好気性菌で、口腔・皮膚・中枢神経での感染の起因菌となる。血液悪性腫瘍や好中球減少時の中心静脈カテーテルからの感染の報告が多い、薬剤感受性試験としてはCTRX, VCM, carbapenem,FQに感性であると記載されています。Mandellではもう一つRothia dentocariosa and Rothia mucilaginosaother coryneform bacteriaのところにも6行だけ記載されています3。内容としては、口腔内常在菌で歯垢の原因の一つで、口腔周期の感染症を引き起こす。R. dentocariosaDermabacterActinomycesと間違って同定される可能性がある。報告としては人工弁・自然弁に関わらず膿瘍形成や動脈瘤を伴う心内膜炎や化膿性脊椎炎のものがある。

R. mucilaginosaは口腔・鼻咽頭の常在菌であり、培養ではグラム陽性のclusterを形成する陽性菌として確認される。case series2つあり、どちらも好中球減少や血液悪性腫瘍が関連しているというものでした。そのほか肺がん患者の肺炎症例やCAPD症例の腹膜炎の報告もある様です。せっかくなのでここでそのcase seriesを紹介します。

一つ目はMayo clinicからの報告です410年間の報告でbacteremiaとして同定できた25症例に関してまとめられており、22/25で好中球減少、76%(19/25)が白血病でした。感染巣としては消化管からのbacterial translocation,カテーテル関連血流感染、そして粘膜炎と続きます。20%が感染巣不明でした。9/25症例でpolymicrobial infectionであることも示されています。治療としてはVCM80%CFPMcarbapenemPIPC/TAZと続き、DAPLZDの症例も複数あります。ちなみに感受性に関しては全例での検索結果は記載されておらず,9/9penicillin感性, CTRX 8/8で感性、VCM 13/13で感性、oxacillin 4/6で耐性という記載にとどまります。

2つ目はWisconsin大学からのこちらも単施設の後方視的検討です5。ほとんど結果が似通ったものとなる29症例の検討ですが、21/29が好中球減少が認められ、16/19が白血病。カテーテル感染、粘膜炎、そしてbacterial translocationと感染源が続く結果です。またステロイドの使用および菌血症前のFQの使用がこのbacteremiaに関連が認められました。興味深いことに好中球減少の症例ではこの菌の単独感染が多かったのに対して、非好中球減少症例では複数菌感染の菌の一つとしてRothiaが検出される割合が高かったという結果も得られました。それ以外にもpubmedで調べるとStomatococcus mucilaginosusの名前であれば複数seriesは出てきますが、基本的には日和見血液培養陽性菌であるのは共通している点かと思います6

現在臨床的に問題になっていると考えられるのはこれ以外にRothia aeriaがあり、前述のdentocariosa, そしてmucilaginosaであると言えるかと思います。その中で先の2菌種は放線菌様に認められるのに対して、mucilaginosaGPC clusterとして認められます。

最後に今回のグラム染色所見です。cluster様に見える菌として、すんなり同定できない場合には、このRothia mucilaginosaがやっと鑑別にあがります。他にcluster様に見えても小ぶりなのがGemellaNVSなどでしょうか?

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Gemella morbillorum Granulicatella adiacens

この菌の特徴はズバリ口腔内菌で、口腔内プラークおよびbiofilm形成に関与している菌であり、HACEKなどと同様にIEの報告があります7。さすが口腔内の菌ということで、日本語では歯科の先生が総説を記載されています8。ちなみにそこではTeramotoらによるRothiaと歯の症状との関連が引用されており、R. mucilaginosaは歯肉腫脹と関連、R. aeriaは根尖部のX線透過像や打診痛と関連しているそうです9

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大楠先生のウェビナー以外にも臨床微生物学会がアトラスとして菌名およびコロニー写真をstockしてweb上で公開してくれています10。最近ではこのようなdatabaseが活用され、かつgoogleなどの検索エンジンで画像で検索できるようなアプリ(googleレンズなど)と連動させることでよりタイムリーで深い学びがその場でできる様になってきていると思います。

ちなみに今回検出されたR. mucilaginosaは(breakpoint設定はないものの)、CEZMIC1と若干高いものの、それ以外はABPC 0.25でもあり、ほとんど全ての抗菌薬の感受性が担保されているものでした(EMでも<=0.25, LVFX<=1 CFPM<=0.25)

ということで、馴染みのない菌が検出された時には、MandellgoogleBD webinar 菌トレまたはMandellBD webinar 菌トレ→googleの順番でpubmedで詳細を調べる前にというのが正解の一つかもしれません。

1:BDウェビナー第37回 https://www.bdj.co.jp/micro/support/webseminar/member/hkdqj200000w3hbd.html

2:Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases. Chapter 202

3:Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases. Chapter 205

4:J Clin Microbiol 2014;52(9):3184-3189. PMID: 24951810 IF: 9.4 Q1

5:Diagn Microbiol Infect Dis 2016;85(1):116-20. PMID: 26906191 IF: 2.9 Q3

6:Rev Infect Dis 1991;13(6):1048-52 PMID: 1775836

7:Enferm Infecc Microbiol Clin 2019;37(7):448-453. PMID: 30545671

8:日歯内療誌 2021;42(3):160-165

9:World journal of advanced research and reviews. 2019;04(02):020-026. Cross Ref DOI: 10.30574/wjarr

10:臨床微生物学アトラス https://www.jscm.org/atlas/search.htm


# by sakai-infection | 2024-01-31 13:39 | Comments(0)