2023年 11月 22日
Film arrayと髄膜炎
今回の症例は20代女性。4日前から頭痛と倦怠感・発熱があり、近医を受診。コロナ・インフルエンザの検査が実施され陰性でしたが、ジスロマックが処方されました。その後悪心・嘔吐も出現し、症状の改善に乏しく当院受診に至りました。過去手術歴を含め明らかな既往症はなし。本人に詳細を聴取したところ来院8日前にhigh risk sexual intercourseがあったことをお話しいただけました。また5日前より院部に3箇所くらいブツブツができて、最初は違和感程度でしたが徐々に痛みが出てきて、歩くだけでも痛むようになったということです。実際に6時方向に複数の光沢のある水疱が陰部に認められます。排尿時痛もあり、尿はWBCが多いものの、菌はグラム染色上まばらです(AZM投与後の影響でしょうか?)。他に、髄膜刺激症状としてはKernig/ Brudzinskiは陰性ですが、jolt accentuationが著明であり、髄液検査が実施されました。

一様にリンパ球と考えられるN/C=1でRBCと同じsizeの細胞が非常に多く認められています。
髄液の性状を記載します
有核細胞数 | 1359 |
WBC | 1257 |
Mononuclear cells (%) | 93.2 |
Polynuclear cells (%) | 6.8 |
Protein | 227 |
Sugar | 40 |
皮疹のぬぐい液のderma quickでHSV陽性であり、HSVによる急性無菌性髄膜炎の診断で入院となり、Acycrovirによる点滴治療が開始されました。
単純ヘルペスであるHSVはα-ヘルペス属であり、HSV-1, HSV-2の2typeがあります。通常のreservoirはヒトのみです。HSV-1は多くは幼少期の感染であり、HSV-2は主にSTDとして感染症を引き起こします。こういった背景もあり、HSV-2の感染はHIVの罹患リスクを上昇されることも知られています。VZVと同様、再発性の病態を示すことが多く、HSV-1の口唇炎は古くから熱の華と呼ばれたりしています。
性器ヘルペスはHSV-2, HSV-1のどちらでも起こりえます。また、潜伏期間は2-12日程度とされています。女性の方が男性よりも有症状であることが多く、女性では70%, 男性では40%程度であるとされています。発熱・倦怠感・筋肉痛・鼠蹊リンパ節腫脹といった非特異的な所見以外に、無菌性髄膜炎や、尿閉と関連した仙骨自律神経障害が併発することがあります。男性では亀頭・軸部分に紅斑を伴った水疱が集簇、女性では両側の外陰部に病変を生じます。子宮頸管炎を合併した場合には、クラミジアや淋菌感染症との鑑別が困難であるとMandellに記載もされており、またこれらの混合感染もあり得ると考えるため、genital herpesを認めるような場合には他のSTIのrule outも実施するのが一般的かと思います。ただし、潰瘍化や壊死を起こすのはgenital herpesに特異的な所見のようです。
無菌性髄膜炎の合併に関しても女性の方が多いようで、女性の36%, 男性の13%が初感染の場合に髄膜刺激症状を呈するとされています。無菌性髄膜炎は通常陰部病変が出たのち3-12日で起こるとされ、2-3日で症状がpeakに達し、その後2,3日で軽快に向かうというのが一般的な経過です。本症例は陰部病変に気がついた翌日から頭痛や発熱が認められ、その後3日程度での来院ですので、最初の症状が急性ウイルス感染症による症状なのか、無菌性髄膜炎に至っている症状なのかは判然とはしませんでした。
治療として、genital herpesの発症早期のacyclovir投与が無菌性髄膜炎の頻度を減らすことはわかっています。一方で髄膜炎に至った場合にacyclovir自体がどこまで有用かはわかっていませんが(有用でない可能性も示唆されている)、一般臨床では7-10日のacyclovirが使用されることがほとんどかと思います(入れなかった経験がないのでわかりません)。
HSVによる無菌性髄膜炎に関しては、複数回再発するケースが散見され、古典的にはMollaret syndrome、最近では再発性良性リンパ性髄膜炎(recurrent benign lymphocytic meningitis: RBLM)と呼ばれています。症状は2-5日続くのが一般的ですが、改善・増悪を繰り返し、繰り返すうちにintervalは長くなっていくのがほとんどです。長い症例では症状が3週続いた症例もあるそうです。随伴症状としては半分の患者で痙攣・幻覚・複視・麻痺・様々なlevelの意識障害を含むneurological symptomを伴っていたとreviewに記載されています。髄液のHSV-2 (まれにHSV-1)の検出を診断の基本として、治療および再発予防にacyclovir ,valacyclovir, famciclovirが用いられます(6回以上の再発episodeで予防開始を考慮)。
また仙骨自律神経障害が併発を上記で記載しましたが、これはHSV-2が脊椎神経根で炎症を起こすことで尿閉が引き起こされ、Elsberg症候群と呼ばれています。診断には脊椎のMRIが有効であり、初期感染だけでなく、α-herpes属の特徴である潜伏感染でも引き起こされます。こちらは髄膜炎症状を伴わないことがほとんどであるとされ、尿閉・genital ulcerがあればこれを疑うというのが診療のpointになるかと思います。こちらに関しても抗ウイルス薬投与が行われるのですが、皮疹はよくなっても尿閉がなかなか改善しない症例があるということも覚えておくと良いかと思います。
ヘルペスの診断は臨床診断に加えて、ウイルスの存在を示唆する所見を根拠に実施されます。古典的にはTzanck試験という細胞診が簡便な方法として行われてきましたが、これはウイルス性巨細胞の有無を検索するものであり、VZVなどの他のヘルペスとの区別ができません。そのためイムノクロマト法を用いた迅速抗原検査やPCR法が最近では診断の中心です。皮疹に関してはこのイムノクロマト法が極めて有効であり、当院でも株式会社マルホのデルマクイックVZVおよびプライムチェックHSVを使用しています。これは皮疹のびらんや潰瘍ぬぐい液をswabbingして、インフルエンザの迅速検査のように実施する方法で、10分足らずで診断できます。

一方髄膜炎に関しても、近年マルチプレックスのPCRによる短時間での診断が実施されるようになりました。その代表格がfilm arrayです。2018年に血液培養パネルが、2020年に呼吸器パネルが、2022年には髄膜炎・脳炎パネルが保険適応となりました。呼吸器に関しては2.1というパネルがあり、インフルエンザ・(新型を含む)コロナウイルスの他に、主に小児で問題となるウイルスを網羅的に調べられるほか、百日咳やマイコプラズマ・Chlamydia pneumoniaeも検出対象です。鼻咽頭ぬぐい液を300μLで行うことができます。

一方髄膜炎・脳炎に関しては200μL程度で検査が可能で以下のウイルス・細菌・真菌が網羅的に調べることが可能となっています。

なお、肺炎パネルと消化管パネルもありますが、こちらは2つとも2023年11月の段階では保険未収載となっております。
本症例は、やはり聞きにくいsexual activityはしっかり聴取すること、一つのSTIが認められる場合には、他のSTIの合併(HBV/HIV/syphilis/gonococcal infection/chlamydia)を鑑別しつつ診療を進めること、さらに診療技術の進歩により利用可能となったものはcostを勘案しつつうまく取り入れること、というのが重要な点かと思います(直接関係ないけど、Mollaret髄膜炎とElsberg症候群も覚えておこうぜ)。当院でも12月からFilm arrayが本格的に始動となる予定です。当院のような急性期100%の病院では早期診断が一つの鍵となるため、panelに入っていないウイルス・菌がなんなのか?も踏まえて上手に使っていければと思います。
シュロスバーグの臨床感染症学 2nd edition. MEDSi Chapter 187. page 985-989
Ann Intern Med 1983;98:958-972. PMID:6344712
Mandell,Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases. 9th edition chapter 135. Herpes Simples Virus
Clin Infect Dis 2006;43(9):1194-7 PMID:17029141
Eur Neurol 2005; 53(4):179-81 PMID: 15942245
Visual dermatology 2016;15(8):780-784
https://www.maruho.co.jp/medical/products/dermaquick_hsv/index.html
https://www.medience.co.jp/clinical/information/parts/pdf/21-45.pdf
https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/202305_P13-16.pdf
臨床と微生物2020;49(増刊号):89-95
2023年 11月 15日
尿に針状の結晶
2023年 11月 01日
Fusobacteriumが針状、ではなく、Fusobacterium nucleatumが針状
今回の症例は基礎疾患として高血圧がある程度の40代の男性です。来院3日前から発熱・咽頭痛があり、左肩の痛みが出現し近医を受診。その際に心エコー上asynergyの指摘がなされ、A病院にAMI疑いで受診されました。そこでは心エコー上asynergyなく、38℃の発熱、血圧と脈拍の逆転が起こっているshock vital
でした。画像上左扁桃の腫脹及び左肩関節周囲のair像を伴う軟部陰影、及び多発肺結節が認められております。。なお、左内頸静脈は右と比べて非常に細く、一部では血栓はあってもよさそうです。敗血症性肺塞栓・肩関節周囲炎を伴うsepsisが考えられ、当院の救命に転送となりました。前医ではMEPMが投与されています。血液培養をはじめ各種培養採取後、左肩の切開排膿が緊急で実施されましたその際の手術検体グラム染色が下の写真になります。

今日の菌はFusobacterium necrophorumです。Lemierre症候群の起因菌ですが、この症候群はFusobacterium菌血症、化膿性内頸静脈血栓症、転移聖杯感染症と関連する壊死性扁桃咽頭炎とされています。
菌の形に関しては、Mandellに記載があります。Fusobacterium necrophorumは球菌や多形成の桿菌を示す多形成の形態を取り、F. nucleatumは端が丸いものから、両端が尖った細くて長い形態をとると記載されていました。
永田先生の教科書では
F. nucleatum:両端が尖った細長い紡錘形
F. necrophorum: 多形性で、嫌気性菌を疑う
と記載されています。細長いのはF. nucleatumだけですね、理解しました。
ちゃんとプラチナアトラスにもF. nucleatumは紡錘状の形態を示す桿菌で、グラム染色で推定できる菌の一つと記載されており、常識なんですね。

嫌気性菌は多形性というのがkeywordです。肩関節周囲炎という血流感染が疑われる:つまり単菌種である事前確率が高い状況で、長いGNRや小型のGNRが同時に認められ、ひょっとして2菌種以上いる?というようなsettingでは、嫌気性菌の可能性を考えて対応する必要があるかと思います。関節周囲にガス像が認められるのも、ガス産生菌が原因と言えそうなところです。患者背景も特別基礎疾患のない患者で、急性扁桃炎後の経過、まさにLemierre症候群の経過であることがわかります。
Lemierre症候群は疫学的には3.6/1,000,000とrareな病態ですが、14-24に年齢を限定すると14.4/1,000,000となる若者の疾患です。秋から冬にかけて多い傾向があり、男性に優位に起こりやすいという疫学結果があります。この原因としては、口腔内のFusobacteriumの分布の差があるのかもしれません。というのも、Canadaからの報告で、Small studyではありますが、72症例のFusobacteriumの菌血症の解析で、F. necrophorumは40未満でしか起こらず、40以上であればF. nucleatumかその他のFusobacteriumであったという報告があります。
全ての嫌気性菌による菌血症のうち、口腔咽頭感染は1-5%とされています。そのうち最も頻度が高いのがF. necrophorumです(Fusobacteriumは13種類ある)。この菌は非運動性、非芽胞形成であり、グラム染色上は他のFusobacteriumとは違い、フィラメント状だったり、短桿菌だったり、球菌だったりと多形成をとるようです。
ちなみにLemierre症候群はFusobacterium necrophorum以外にBacteroides, Eikenella, Streptococcus, Peptostreptococcus, Porphyromonas, Prevotella, Proteus, MSSA, MRSAで報告されています。
Lemierre症候群は口蓋扁桃・扁桃周囲の感染がprimary infectionであることが一番ですが、歯由来・乳様突起炎・中耳炎などもprimary infectionとなりえます。その上で、内頸静脈血栓を形成するメカニズムは実はちゃんとわかっていないようで、扁桃静脈を介してだったり、リンパ系を介して隣接する咽頭側腔に伝播して血流に乗るなど(頸部のリンパ系は敗血症性リンパ液の貯蔵槽となるようで、排液が溜まって頸部周囲の炎症と血栓を形成している可能性が示唆されているようです)のほかに、扁桃腺に近い膿瘍が咽頭にあるlooseな結合織の中で広がっていき静脈に付着して静脈周囲炎を起こしそこから静脈内へ移行することや、他の菌・ウイルスによる感染症が先に起こり、粘膜が変化したところにnecrophorumが局所浸潤していくなど様々な仮説が唱えられています。実際にEBウイルス感染症との関連の可能性が示唆されるようなcase reportが散見されるようです。
症状としてはLemierreが最初に報告した時には扁桃炎が出て、発熱が続く。その後肺塞栓と関節炎が出てくるというのが典型的であり、間違いはほとんどありえない、と言っていますが、血液培養で嫌気性菌が増殖されるまでは実際に多くが見逃されているのが現状のようです。その理由としては、rareであること、sepsisになっている時には多くの症例で咽頭痛が消えていること、初期診療のほとんどが非専門家によってなされているためと本文では言及しています。血栓性静脈炎は胸鎖乳突筋に沿って広がり、疼痛・腫脹・硬結を伴います。この腫脹は広範囲ですが、頸部リンパ節の腫脹・熱痛と捉えられることも多いようです。過去の報告では頚部の症状を認めるのは全体の47.7%と半分程度のようです。画像で頸静脈血栓が認められるのは59%と40%は見逃すor認められないようです。ただ、肺塞栓の画像は97%と極めて高頻度で認められるという別の報告もあります。
合併症としては肺のseptic emboli以外にも肺化膿症・膿胸・胸水貯留の他、化膿性関節炎・骨髄炎・肝膿瘍や脳膿瘍、皮膚軟部組織膿瘍などが挙げられます。
診断基準なるものもあるようで、咽頭の嫌気性感染が生じたのち、血液培養が陽性となり、遠隔部位への転移性感染や血栓性静脈炎を伴えばLemierre症候群とする、というもので、広く受け入れられているとここでは記載されています。
治療は外科的drainageと抗菌薬治療となりますが、抗凝固治療に関してはcontroversialなようです。2021のOFIDで82症例のLemierre症候群の検討がなされていますが、多くの患者で抗凝固なしで改善したけど、抗凝固を加えた群での有害事象は加えなかった群とほとんど変わらなかったと記載されており、他の報告でも比較的安全に使用できている症例が散見されましたが、基本いらないんじゃないでしょうか。
治療薬はMNZが最も使用されているようで、これはCNS penetrationも考慮されてのことのようです。ほかにはCTRX+MNZ, Carbapenem, ABPC/SBT, CLDM, PIPC/TAZなどが使用されていますが、合併症のために3-6週の治療を要しています。また、治っていくのに非常に時間がかかることが示されていて、8-9日改善するのに時間がかかったという報告もあります。
シュロスバーグの臨床感染症学 2nd edition p.30
Mandell chapter 247. P.2969-2976
感染症診断に役立つグラム染色 第3版
Lancet Infect Dis. 2012;12(1):808-15. PMID:22633566
BMC Infect Dis. 2013;13:264. PMID: 23734900
Pediatrics 1995; 96:354-59. PMID:7630700
Open Forum Infect Dis 2021;8(19*ofaa585. PMID: 33447643
2023年 10月 25日
好中球減少期の尿路感染症
今日の症例は20代の男性。脳の占拠性病変に対して大量MTXが投与され、その後血漿交換などが実施されております。集中治療管理を実施され、挿管管理下です。ロイコボリンでのMTXの血中濃度はしっかりと下がりましたが、その後3系統とも減少し、数日の経過です。中枢性の病変であり、発熱は持続しており、クールラインが挿入されていたので、発熱はわからないものの、カテコラミンの需要が急速に増え、各種培養採取の上でMEPMが開始されました。翌日血液培養好気ボトルからのみ以下の様な菌が検出されました。

グラム染色の特徴は、細めの染色性の一様で、バナナのように少し曲がっていて、先が若干細くなっています。これは全て非発酵菌を示唆する特徴です。また柵状に増殖しているのも特徴の一つです。今回は血液培養でFusobacteriumの症例もあったので、腸内細菌目(大腸菌)・非発酵(緑膿菌)・Fusobacteriumで並べて載せてみました。

症例に戻りますが、喀痰はGeckler 6群で菌も認めませんが、尿は血液培養と同様の菌が極めて多数認められています。

今回の菌は緑膿菌です。ブドウ糖非発酵菌に属するこの菌は、偏性好気性菌の代表格です。この菌はさまざまな環境で存えることができる環境菌の一つです。一般には皮膚・鼻腔・咽頭・便での定着に関しては0-2%, 0-3.3%, 0-6.6%, 2.6-24%程度とされていますが、入院中となると50%に跳ね上がると言われており、中でも外傷などで皮膚のバリアが破綻している患者や人工呼吸器管理、カテーテル管理、術後、熱傷患者ではそのriskが高いことが示されています。もちろん正常細菌叢に影響を与える抗菌薬投与も重要な定着のriskです。こういったことから、米国のある研究では院内感染の原因菌の5位に当たるとされています(全体の9%)。その際のfocusは呼吸器>尿路>SSI>CRBSIとなっており、いずれも無視できるものではありません。特にICUでのVAPはその頻度が高いとされています。
また、症例提示で好気ボトルからのみ検出されていることを示しましたが、菌の量が多い場合には嫌気性ボトルでも陽性になることはありますが、必ず好気ボトルから陽性になります。
培養条件に応じてここでは5つの群に分けて記載しました。菌の培養条件はこのように酸素や二酸化炭素の濃度で生えやすい、生えにくいというのもあり、さらに温度設定でも生えやすい、生えにくいというのがあるのでどういう菌を疑うかで培養条件を調節しています。
今回はFNとしてMEPMで治療を開始しましたが、感受性結果を見てCAZへde-escalationを推奨しました。CAZは2010年まではFNのfirst-line agentでしたが、2010年のIDSAのguidelineで単剤治療でのfirst-lineから外されました。これは耐性菌の増加、および連鎖球菌を中心とするGPCのカバーが非常に弱いことに起因します。化学療法ではnadirが深い場合だけでなく、直接的な副作用としての粘膜障害があります。こういった場合には連鎖球菌はFNの起因菌として重要なweightを占めています。ただ、本症例では粘膜障害はないですし、問題となっているのは緑膿菌だけですので、CAZへde-escalationは問題ないと判断しました。FNにおいてtarget therapyを行う場合、緑膿菌を外していいかどうかは意見の分かれるところではあり、好中球が減少する状況が長い様な場合には注意が必要だとは思います。2022年にNCCN/ESMO/IDSAのガイドラインの比較がJ. Myles keckらによって報告されていますので、一度目を通しておくと良いかと思います。
ケースで学ぶ抗菌薬選択の考え方 医学書院
Clin Microbiol Rev 2009;22(4):582-610. PMID:19822890IF: 36.8 Q1
Clin Infect Dis. 1997;25(3):551-73. PMID:9314442IF: 11.8 Q1
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Cochrane Database Syst Rev 2017;6(6):CD003914. PMID: 28577308IF: 8.4 Q1 .
The Adv Infect Dis 2022;9:20499361221138346. PMID:36451936IF: 5.7
薬剤耐性に関してですが、緑膿菌は非常に多彩な耐性機序を有しており、近年はOXA/GES/VEBなどのplasmid性の獲得型beta-lactamaseの広がりが問題になっております。その他VIMなどのcarbapenemaseの保有も国内外から報告されています。ちなみにこの場合のscreeningではCAZを用いてESBLの保有を見るのが一般的であり、設定としてはCAZのMIC≧16が多いかと思います。今回は元々緑膿菌が有する耐性遺伝子と機序について少し述べたいと思います(内因性耐性:引用は基本CMR 2009年)。その耐性因子の中心はAmpC, OprD, efflux pump (multiclass)です(他にも内因性のアミノ配糖体修飾酵素とclass DのOXA-50がありますがここでは述べません)。

AmpC: AmpCは通常発現量が抑制されております。一方で特定の抗菌薬曝露によってその抑制が外れ、過剰産生されます(これを誘導性という)。腸内細菌目のそれと同様に誘導性であることが示されていますが、過剰産生となった場合には、腸内細菌目のそれとは違い、CFPMやIPMの耐性も容易に起こります(これは外膜が重要な理由の一つ)。ただ、過去の実験データではこれだけでMEPM耐性になることに関しては否定的であり、MEPM耐性となっている場合にはAmpCの過剰産生だけではなく、efflux pumpの過剰産生やporin孔の中心であるOprDの減少、それに±carbapenemaseの結果と考えられています。
AmpCの過剰産生のメカニズムに関しては基本的には抗菌薬投与によってペリプラズム領域にペプチドグリカンから壊れて外れていったムロペプチドがAmpRに結合し、そこでAmpRの変異が起こることでampCのpromotorとなるもの(抗菌薬使用によって誘導される過剰産生)とAmpDの変異によってペリプラズム領域にムロペプチドが常に溢れた状況となって誘導型と同様にAmpRのregulationに変化が起こる(抗菌薬投与によらない構成型)ものがここでも記載されています(拙著ケースで学ぶ抗菌薬選択の考え方にもシェーマを交えて記載しているのでご覧ください)。その他AmpEというタンパクも緑膿菌のAmpCの発現量に影響を与えていることが知られています。ちなみにAmpDの変異に関してですが、緑膿菌はAmpDのhomologue(相同体)が2つ発見されており(AmpD, AmpDh2およびAmpDh3)、それらのmutationが増えれば増えるほどAmpCの発現が増えていくことが報告されています。これに加えてPBP4がAmpCの発現に影響していることもわかっており、このmutationがAmpCの過剰産生に関与しているという極めて複雑なAmpCの産生制御のメカニズムがあります(その上で全て解明されているわけでもない)。最終的に、記憶するべきはAmpCの過剰発現にはcefoxitin、IPM、CVAが非常に影響を与えるだろうという基礎実験とIPMは不安定になるかと思います。
OprD: グラム陰性菌に取って、porin孔は外膜に存在する栄養を取り込む大事なrouteです。ここはまた、抗菌薬が細胞外膜を通過する際のrouteともなります。緑膿菌は元々このporin自体が非常に少ない菌であり、大腸菌の8%程度しか有さないとも報告されています。細胞外膜は脂溶性であり、β-lactam系抗菌薬・アミノ配糖体・テトラサイクリンはこのporin孔を通ってから効果を発揮しますので、このporinが変化を起こすと、これらの抗菌薬の感受性が低下することは容易に想像できるかと思います。このうちOprD (D2 porin)はカルバペネムの重要な侵入routeであり、この発現が減少することでIPMは耐性となり、DRPMやMEPMのMICも上昇することがわかっています。このOprDもpromotor領域で制御されており、アルギニン感性制御因子であるArgRがoprDのpromotor領域に結合することで発現量が低下します。その他にも銅や亜鉛といった金属もoprDに影響を与えたり、さまざまなregulationに影響を与える因子が同定されています。
色々記載しましたが、ここで重要なのはIPMの感受性の低下が目立つ時にはOprDというouter membrane proteinの発現の低下を考慮するということになります。
Efflux pump由来の耐性:せっかく狭いporinを通過した抗菌薬ですが、PBPに到達するまでに汲み出されると抗菌効果が発揮できません。菌はこのように抗菌薬を外に汲み出すefflux pumpを有しており、5つの種類があるとされますが、緑膿菌はその全てを有していると考えられます。しかしながら、その中心はRND familyと言われるものです。Efflux pumpによる耐性は、βラクタム系抗菌薬だけでなく、キノロンやテトラサイクリンなどmulticlassの抗菌薬を外に汲み出すことで、PBPへ到達する抗菌薬の濃度を減らそうとします。

これらのefflux pumpも通常はATP依存性であったり、プロトン依存性であったりするので、通常はその作用にregulationがかかっています。緑膿菌が有するRND typeのefflux pumpは10種類同定されており、それぞれMexAB-OprM, MexCD-OprJ, MexEF-OprN, MexXY, MexJK, MexGHI-OpmD, MexVW, MexPQ-OpmE, MexMN,sそしてTriABCとそれぞれ名前がついています。さらにこれらのeffluxは細胞間の連携や生理的な要素も兼ね備えているようです。非発酵菌で治療の中心となるST合剤に緑膿菌が自然耐性なのは、このsystemにより、十分な菌の細胞内濃度が保つことができないからと考えられています。以下それらの特徴を少しだけ記載して今日の話はおしまいです。
MexAB-OprM: キノロン・テトラサイクリン・クロラムフェニコール・マクロライド・novobiocin, STともに意外にbeta-lacam系抗菌薬であればIPMとFRPM以外はほとんど排出可能です。この発現は菌が増殖し、densityが高まるタイミングで増加するメカニズムとouter membrane factorであるoprMで制御されているメカニズムがあります。また、その他の複数の遺伝子がその制御に関わっていることも示されており、transposonによってその制御因子の変異が起こるメカニズムもCMRにはしっかりと記載されています。
MexCD-OprJ: MexAB-OprMに似通っていますが、β-lactamsへの影響は基本的に少ないという特徴はあるものの、4thの汲み出しの能力には長けています。
MexEF-OprN: キノロン・クロラムフェニコール・trimethoprimは汲み出せるものの、beta-lactamsはくみ出しできません。
MexXY:基質としてはキノロン・セフェピム・アミノ配糖体・TC・EM・クロラムフェニコールが該当します。
MexVW, MexPQ-OpmE, MexMNはplasmid性でcodeされているもののようです。また、TriABCに関しては抗菌薬の汲み出し機能に関しては報告されていないようです(2009年時点)
以上のように多彩な耐性機序を有していますが、これはやはりporinが限られているからかと思います。入り口が狭いので、それを閉めれば目にみえる耐性化が起こる、という理解がしっくりくる次第です。
緑膿菌の耐性に関してはJ-IDEOにより詳しい解説が過去西村先生によって記載されていますので、それを読む前にこれと、拙著ケースで学ぶ抗菌薬選択の考え方を読んでもらえれば、十分な理解が得られるかと思います。またClin Microbiol Rev 2009;22(4):582-610. PMID:19822890IF: 36.8 Q1 に綺麗なシェーマがありますので、ぜひシェーマを見ながら本文を読んでもらえると良いかと思います。機序などではなく、耐性に関しての大きな解釈はMDRPの総論などを一読しておけば良いかと思います。
Rev Soc Bras Med Trop. 2017;50(3):315-320 PMID: 28700048IF: 2.0 Q3
日本臨床微生物学会雑誌 2022;32(1):57-60
Clin Microbiol Rev 2009;22(4):582-610. PMID:19822890IF: 36.8 Q1
Antimicrob Agents Chemother. 2005;49;29:479-87. PMID:15673721
Antimicrob Agents Chemother 2006;50(5):1780-7. PMID: 16641450IF: 4.9 Q1
JIDEO 何回か分
ケースで学ぶ抗菌薬選択の考え方 医学書院
臨床と微生物 2023;50(1):15-19
2023年 10月 24日