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高度溶血性グラム陽性球菌菌血症再び

今回の症例は80代の男性です。パーキンソン病を基礎疾患にもち、要介護4です。普段の外出は車椅子、排泄はかろうじてポータブルトイレへの移動というADLでしたが、前日の夜より発熱があり、訪問看護師が翌日家で診察をしたところ、SpO2 88%と低下しており救急要請されました。なお、今回のevent7日前に尿量減少があり、かかりつけ医によりバルーン留置が行われた状況でした。また、仙骨部に褥瘡が1年ほど前からあり、外用や処置を在宅で受けていましたが、3時方向で剥離があり、一部滲出液はあるものもの、熱感はほとんどありませんでした。

画像的には両肺の下肺野に浸潤影があり、誤嚥に矛盾せず、また喀痰もG3polymicrobiral patternでした。血液培養を含む各種培養を採取の上で、ABPC/SBTによる治療を開始しましたが、翌日血液培養より4/4で陽性報告がありました。なお、喀痰は培養結果としては口腔内常在菌3+, MRSAがごく少数、Candida少数という結果です。

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今回も溶血に関して見るポイントは

#1. グラム染色での背景

#2. ボトル

#3. 血液寒天培地

で評価できます。

今回の菌はボトル溶血もあり、ボトル内の液体部分が2層に分離されず、暗赤色に一様に見えます。

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手前がCitrobacter freundiiが検出された他の患者のボトル、奥が今回のボトル。横にすると見やすいが撹拌しないように注意が必要

また、血液寒天培地でも勿論しっかりと溶血して透けています(コロニーが認められなかったところのみ残っている)

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今回の菌は強い溶血性をもったグラム陽性連鎖球菌で、最終的にはStreptococcus dysagalactiae subsp. equisimilis(SDSE)という結果でした。2000年前後まではβ溶血性の連鎖球菌はA群溶連菌・B群溶連菌が重要視されておりましたが、C群やG群でも侵襲性の重症感染症の報告が相次ぎ、このうちSDSE(Streptococcus dysagalactiae subsp. equisimilis)がその病原菌の中心であることがわかりました。この菌の難しいところは、やはりLancfieldが一定しない、つまりG群・C群、中にはA群で凝集するものもあるということであり、群別のみでの菌種の同定が困難であることに起因します。

SDSEによる感染症は高齢者で基礎疾患を有する患者の割合が高いとされ、GASGBSが若年層から認められることと対照的です。敗血症や壊死性筋膜炎などの重症皮膚軟部組織感染症の原因として知られている他、連鎖球菌性毒素性ショック症候群の原因にもなり得ます。この場合急速に水泡・表皮剥離・紫斑・点状出血・壊死が生じて、壊死部は通常無痛性とされます。これは、GAS同様にM蛋白という毒素を産出することに起因します(本症例は幸いにもこういった状況には至っていませんでした)。

治療ですが、絶対的にペニシリン系製剤です。GVSPBP変異の報告がある中で、基本的にはペニシリンが最も効果があるとされております。またSTSSを合併していると判断された場合には外科的なドレナージが可能な限り行うべきであるのはいうまでもありません。長らくinvasive Streptococcal infectionに対してはCLDMの併用の是非が問われていましたが、2021年の報告で一応大規模な結果が出ております。これはβ溶血性のStreptoccoccusを対象としたもので、GAS(Streptococcus pyogenes)NABS (non-A, B Streptococcus)でのCLDMの併用の是非を問った試験ですが、結果としてはGASではCLDMの併用で予後が改善、一方でNABSでは有意差こそ出なかったものの、CLDM併用の方が予後が悪かったという驚くべき結果です。これに関してはall Japanでのdataが出ており、CLDM併用でもnonGAS症例にCLDMを足しても予後は悪化しなかったという報告がなされております(ただし改善もなかったという結果)。これは、菌が出すtoxinvirulence factorは一つではなく、一方を抑制すると他の因子が強く発現する可能性に起因しているのかもしれません(引用文献の4,5)

本症例はどちらかというと誤嚥の経過で血液培養でSDSEが生えてきた、というものでしたので、CLDMの初期投与は行わず、そのままABPC/SBTを継続し、5日目にABPC単剤にswitchされました。

#1. J Clin Microbiol 1999; 37(12):4194-7 PMID;10565964

#2. Lancet Infect Dis 2020: S1473-3099(20)30523-5. PMID:33333013

#3. Acute Medicine and Surgery 2021; 8: e634 PMID: 33659065

#4. Antimicrob Agents Chemother 2003;47(5):1752-5 PMID: 12709354

#5. Antimicrob Agents Chemother 2010;54(1):98-102 PMID:19805566


by sakai-infection | 2023-03-01 12:36 | Comments(0)