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尿の背景、見てますか?

今日の症例は80代男性です。頸髄損傷でC5以下の不全麻痺があり、気管切開の上で人工呼吸器管理を実施しております。突然のshiveringと、その後の血圧低下があり、精査が実施されました。補液でも血圧が上昇せず、カテコラミンサポートも開始。血液検査ではWBC22000と上昇。尿道バルーンカテーテルが挿入されており、尿混濁も著明であり、PIPC/TAZ投与が開始されました。

その際の尿の定性検査結果をお示しします。

比重

1.020

pH

8.5

タンパク定性

4+

潜血

3+

白血球

3+

尿亜硝酸

(-)

尿ケトン

(-)

休日であり、沈渣は実施できておりません。

次にこの尿のグラム染色をお示しします。

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グラム陰性菌の見方は、大きさ(というよりは太さ)、染色性、edgeを見ます。染色性は一様にみえ、やや先端が丸みを帯びた、太めの菌からやや紡錘形の菌が所狭しと認められます。さらにこの写真の中心には長方形に抜けた構造物があり、その表面に取り付くように同様のグラム陰性桿菌が認められます。

翌日血液培養からは同様の菌が検出されました。

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こちらの方が表現は形態の読影は尿よりも容易ですが、言語化すると染色性の一様で良い、先端のやや角張った太めのグラム陰性桿菌があり、腸内細菌を疑うところかと思います。

今回の菌はProteus mirabilisです。ProteusProvidencia, Morganellaとともに腸内細菌目に属しますが、他の腸内細菌目細菌とは違い、アミノ酸を酸化的に脱アミノ化することでケト酸とアンモニアに分解する性質があります。Proteus属でヒトでの主な病原微生物は今回のProteus mirabilisともう一つProteus vulgarisがありますが、薬剤耐性profileが異なることに注意が必要です。なお、腸内細菌目細菌とはブドウ糖を発酵的に分解し、オキシダーゼ試験が陰性の通性嫌気性グラム陰性桿菌を示します。Proteusは尿路感染を起こしやすい特徴がありますが、大腸菌が主に急性単純性膀胱炎から分離されやすいのに対して、尿路結石や膀胱留置カテーテルなどのある複雑性尿路感染症に多いという特徴があります。Proteus mirabilisはウレアーゼ産生菌です。ウレアーゼは尿素を分解する酵素であり、二酸化炭素とアンモニアがこの酵素によって産生されます。これによって尿はアルカリ性になり、その尿の中で尿中のリン酸とアンモニアが結合し、リン酸アンモニウムマグネシウム結晶ができます。週末であり、沈渣は実施されませんでしたが、後日残検体を用いて実施すると、極めて多数の結晶成分が認められましたし、尿のグラム染色の結晶性の構造物もリン酸アンモニウムマグネシウム結晶であると考えられます。

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X200

ウレアーゼ酸性の尿路感染症を引き起こす菌に関しての論文には、そのウレアーゼ産生量の強弱が記載されているものがあります。これによると、ProteusおよびProvidencia rettgeriの一部の株で極めて高い産生性が示されています。

菌株

ウレアーゼ活性(/mg protein)

96時間時点での尿pH

Proteus mirabilis RB6

2.34

8.34

Proteus vulgaris SDM2

2.13

8.42

Providencia rettgeri SDM1

1.85

8.36

Morganella morganii RB15

1.34

7.39

Staphylococcus aureus P10 6/9

0.28

6.89

Providencia stuartii RB14

01.0

6.44

尿路結石や膀胱留置カテーテルなどのある複雑性尿路感染症に多いという特徴がありますと言いましたが、実際の疫学的なところをお示しします。上が本邦におけるUTIの菌の分離状況、そして下が、カテーテル関連尿路感染症の菌の分離状況の比較になります。5-13%とその頻度が高いところが見て取れるかと思います。

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ではその理由はなんでしょうか?実はこの理由もウレアーゼの産生能力にあります。というのもウレアーゼと運動性、カプセルポリサッカライドとefflux pumpなどによって、この菌はbiofilmを産生し定着していくという特徴があるからです。Biofilmによって異物に定着しながら、組織への侵入を進めていきますので、それほど多くの菌が検出されることなく、侵襲性の感染が引き起こされると考えられます。こういった特徴からも尿路感染によるものであれば、尿道留置カテーテルの入れ替えや結石などの排出などの処置が治療に重要であると考えられています。

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なお今回のProteusESBL産生菌でした。Proteus mirabilisのβラクタム系抗菌薬の耐性機序はほとんどが獲得型のβラクタマーゼ由来であり、ESBL遺伝子によるものになります。大腸菌の次に当院での分離菌でESBL陽性率が高いですが、これが陰性であればABPCでしっかりと治療が可能です。また、テトラサイクリンに自然耐性なことも覚えておくべきでしょう。また、キノロン耐性株が世界的に増えてはいるものの、当院での耐性は目立ちません。。

また、この菌は検査室泣かせの菌として知られています。その理由は2つ。非常に臭い(腐った魚みたいな臭いだと僕は思っています)。そして何よりcolonyの性状です。Swarmingと呼ばれ、その運動性を利用して固形培地上で移動しながら増殖していきます。それの何が問題か?というと、他の菌と同時に生えてきた場合、単独コロニーが釣菌し難い、という特徴があります。そのため腸内細菌の増殖を抑えることができる培地を用います(当院ではPEA培地)。

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コロニーが隣接するコロニーと遊走融合

なお、本症例は経過は良好であり、カテコラミンサポートも終了して、転院を待っているところです。

標準微生物学 第13版 p.168

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by sakai-infection | 2023-08-16 15:46 | Comments(0)