2023年 09月 20日
高度な血管内溶血と肝膿瘍を呈し、数時間で不幸な転機を示したGram variable rod bacteremia
今回の症例は70代の女性です。基礎疾患として高血圧、HbA1c 7.0程度の未治療糖尿病があります。3週間前に転倒して右足を骨折。詳細不明ですがその後感染に対してセフゾン®️が投与されていました。来院日の朝から体調が優れず、発熱・腰痛があり、前医を受診。アセリオを投与されている間に全身性の紅斑が出現し、アナフィラキシーなどが疑われて当院に搬送されました。採血上溶血が著明であり、前医では生化学検査は実施できてなかったと紹介状に記載されています。
来院時呼吸は促迫、血圧は110/64mmHg, HR 79/minでした。来院後胆汁様嘔吐・血尿が認められ、耳からも出血、血圧も86/45mmHgと低下。全身状態不良で人工呼吸器管理を開始。また、画像上は肝臓内(S8)に内部ガス像を伴うに巨大なSolitary Occupied Lesionが認められました。
その際の血液検査は以下の通りです:WBC 19540/μL, Hb 0.6g/dL/ Hct 7.4% plt3.1万/μL、AST/ALT 653/183, LDH 8,382 IU/L,
T-Bil/D-Bil 4.97/2.10 Na/K/Cl 134/3.4/106 BUN/Cre 24/1.54
免疫グロブリンは軒並み低下しておりIgG/IgA/IgM 375/81/27, 直接coombs試験陽性(Anti-IgG 4+, Anti-C3bC3d 4+) 間接coombs試験陰性 pH 7.19, Lac12.6
極めて溶血性変化が強い状況であり、直接coombs試験も陽性であることから、免疫学的な機序による溶血性貧血を考慮して、血漿交換およびステロイドパルスが実施されるとともに、MEPMによる広域抗菌薬投与が開始されました。しかしながら昇圧薬を増量しつつ、輸血を実施するも、血圧は低下していき、その夜間に心停止となりました。
血液培養より8時間で嫌気ボトル2本、13時間で好気ボトル2本以下のような菌が認められました。

ボトル溶血も認められ、非常に強い溶血が認められます。また、極性を持った芽胞形成が認められ、グラムお湯性の部分と陰性の部分が入り混ざった印象です。

普段よく見るClostridium perfringensの血液培養塗沫像
今回はClostridium perfringensの最も重症な血管内貧血を伴う菌血症の症例でした。教科書的にも芽胞形成菌であるものの、芽胞を塗抹上認めることは稀とされており、また多くの場合グラム染色の塗沫上でこれほど強い溶血を見ることも稀かと思いますが、そのどちらも今回は認められました。
Clostridiumは偏性嫌気性菌であり、通常嫌気ボトルでしか陽性になりません。今回好気ボトルからも陽性となったのは、菌量が極めて多いことなどを反映してかどうかは正直わかりません。
実際に臨床でClostridium perfringensが血液培養で陽性となるのは、ほとんどが重症皮膚軟部組織感染症およびcontaminationのいずれかかです。その他食中毒の起因菌(ウェルシュ菌)でもあり、これは菌の出すenterotoxinによる毒素性食中毒とされています。
また、重症皮膚軟部組織感染症であるガス壊疽は全身性のtoxicな病態であり、発芽することでα/θtoxinを出し、それによって組織破壊・溶血・血管拡張および好中球の血管外遊走を抑制する、そのため絵師組織で化膿性変化に乏しいとシュロスバーグには記載されています。Clostridiaの有するtoxinに関してはMandellにも記載があり、ガス壊疽の中心となるαtoxinはlecithinaseと呼ばれるもので、細胞表面の障害をもたらし、溶血の主な原因となるが、すべてのstrain typeでこのαtoxinは有している様です(ex:βtoxinはB,Cしか有しておらず、腸管壊死に関連)。このαtoxinが今回の症例でも重要な役割を演じていると考えられます。実際今回のようにガス壊疽を伴わない菌血症で肝膿瘍を伴うような症例は多く報告されており、その致死率は70-100%とされています。非常に似通った症例が複数case reportとして紹介されていますが、ここでは2つのreview articleを紹介します。
一つ目は聖路加病院のHifumi先生によるJJIDのinvited review。αtoxinが赤血球膜のリン脂質を分解することで破壊。さらにαtoxinは血小板の破壊も起こす。一方でθtoxinはコレステロール依存性のシトリシン(細胞溶解性酵素)であり、白血球の遊走を阻害する。さらにαtoxinは心筋障害を引き起こすし、θtoxinは末梢血管を拡張させ、ショックを加速させるということが引用文献をもとに記載されています。
病態としては間接ビリルビン・LDH上昇、貧血、および肝膿瘍があり、ガス像を伴います。またα/θの抗体を迅速で調べられるものも研究室レベルで使用されている様です。治療としてはペニシリンおよび外科処置がkeyとなりますが、それでも致死率が極めて高く、トロンボモジュリンを使用したり、血漿交換を実施することで救命された症例も報告されている様です。結局はこれは抗毒素治療ということであり、過去様々な抗毒素療法が試された様ですが、市販されているものはありません。
2つ目も日本からの報告です。これは血管内溶血性Clostridium perfringens菌血症のreviewです。というかこれさえ読んでいれば完全にわかった気になれます。日本大学Hayakawaらの報告で、6症例の自験例(すべて死亡退院)を経験された施設で1992年以降の100症例の報告もまとめて記載されております。その6症例はすべてphospholipase C、つまりαtoxinが検出される病態であったという記載内容です。
病態として突然の痛みが特徴的であり、心筋梗塞や大動脈解離の鑑別に上がる様な症例報告も多数あります。他には意識障害・ショックvital・血尿とガス産生性膿瘍があります。
他のclostridiaの菌血症と比べて血管内溶血性(massive intravascular hemolysis:MIH)の昭和大学の比較
血液培養が陽性になるまでの平均的な時間は16.9時間とされ、さらにdoubling timeが7分と記載されておりますので、今回血液培養は好気培養からも分離されたのは、初期菌量が極めて多かったということで良さそうです。
それで、今回の溶血ですが、coombs試験が陽性であり、免疫学的機序が示唆される結果です。実はこれまでの報告はHashibaらの報告でもcoombs試験陰性が重要な点としても記載されています。H先生が紹介してくれた内科学会の溶血のflowchartでも感染に伴うものは免疫学的機序から離れたところの記載です。半年前の血液検査を見る限りは明らかな溶血所見はなく、どうしてこのような結果になったのか?更なる検討が必要そうです。
ここに日本内科学会雑誌 2017;107(3):487-492の図2が入る
この文章内で、α毒素により赤血球細胞膜が破壊されてヘモグロビンが脱落したghost red cellが見られると引用文献が記載されておりましたが、臨床血液からの引用で読むことができませんが、最後のメイギムザにある様なRBCだと思います。

今回の様な症例がきたら?厳しいICと根拠はGASの様にはありませんが、CLDMが少しでも毒素を中和してくれたら・・。ということに期待してMEPM+CLDMくらいで治療を開始するのかなぁ、と思ったり。
シュロスバーグの臨床感染症学 chapter 132 page.715-720メディカルサイエンスインターナショナル
Mandell, Douglas, and Benett’s Principles and practice of infectious diseases. Diseases caused by Clostridium. Chapter 246. p.2960-2968
Hashiba M, et al. Am J Case Rep. 2016;17:219-23. PMID: 27049736
Katsuya Chinen. Autops Case Rep. 2020;10(3):e2020185. PMID: 33344302
Toru Hifumi. Jpn J Infect Dis 2020;73:177-180 PMID:31875607
suzuki A, etal.microorganisms 2023:11(4):82 PMID: 37110247
日本内科学会雑誌 2017;107(3):487-492
臨床血液(0485-1439)53巻5号 page 481 (2012.05)